ミュージックマン・スティングレイのベースについて[記事公開日]2015年3月19日
[最終更新日]2022年03月31日

stingray-bass

エレキベースのスタンダードといえば、フェンダー・プレシジョン・ベースフェンダー・ジャズベースを思い浮かべる方がほとんどでしょう。1950年代から現在にいたるまで多くのベーシストに愛され続けているこの2つのスタンダードを生み出したのが、フェンダーの創始者であるレオ・フェンダーです。

そんなレオ・フェンダーがフェンダーを去った後の1970年代に生み出し、プレシジョンベースやジャズベースに続くスタンダードベースの筆頭と言えるのがミュージックマン・スティングレイです。

ミュージックマン・スティングレイの歴史

迷走の時代に誕生した新しいスタンダード

1970年代から80年代にかけては世界中の楽器メーカーが迷走した時代と言われています。特にエレキギターやエレキベースの場合、1950年代に完成した定番モデルに代わるものを作ろう、と各メーカーがさまざまなアイデアを形にし、奇抜なモデルを次々と発表しました。

スタインバーガー

ネックの反りやねじれを防ぐためにマテリアルにアルミニウムを採用したトラビスビーンや、デッドポイントをなくすためにヘッドを消滅させてしまったスタインバーガーなど、これまでの常識を覆すようなエレキギター、ベースが誕生しては消えて行きました。
スタインバーガー・ベース

50年代に完成した定番モデルの完成度はあまりにも高いものですので、それを超えるものを作るのは決して簡単なことではありませんでした。
そんな中で誕生したのがここでお話するミュージックマン・スティングレイです。

ベースのプレイスタイルに革命を

ベースにはピック弾き、指弾き、スラップ…とさまざまな奏法があります。そしてそれぞれの奏法に合ったサウンドというものが存在しています。スティングレイ以前は、多くのベーシストが自分のメインとなる奏法に合ったサウンドメイクをし、その音で1曲を、または1本のライヴを通さなければなりませんでした。楽曲によってはメインは指弾きであっても部分的にスラップが必要、といったケースもあります。しかし、どちらかを生かすサウンドメイクをしていると、もう一方を殺すことになってしまうことがあります。そのため、1曲の中で、1本のライヴの中で使うことのできる奏法が限られていました。

スティングレイという、手元でサウンドを劇的に変化させることのできる(アクティブイコライザー:後述)ベースであれば。それぞれの奏法に合ったサウンドにすぐに切り替えることが可能です。これによって、ベーシストは曲に合わせて自由に奏法を選ぶことができるようになったのです。これは大きな革命であると言えるでしょう。このベーシストのプレイスタイルに起こった革命は、音楽そのものにも大きな影響を与えることになります。

ミクスチャーロックの象徴となったベース

1990〜2000年代初頭のロックシーンのメインストリームのひとつなったミクスチャーロック、このジャンルの草分け的存在であり、長くその中心を担っているバンドがレッド・ホット・チリペッパーズです。そしてベーシストである RHCP:レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーこそがスティングレイのポテンシャルをもっとも生かすことに成功したベーシストでしょう。


Red Hot Chili Peppers – Coffee Shop [Official Music Video]

現在では(モデュラス製のオリジナルモデルを経て)フェンダー製オリジナルモデルを使用しているフリーですが、80年代から90年代まではブラックボディのスティングレイをプレイしていました。激しく曲調が変化するチリペッパーズのボトムを支えるにはさまざまな奏法が要求されます。指でメローなサウンドを奏でていたかと思うと、次の瞬間には激しいスラップをプレイしなければならないことも少なくありません。従来のパッシブサーキットのベースではこのような奏法の変化に対応することのできるサウンドメイクはほぼ不可能でした。それを簡単に実現することのできるスティングレイというベースが登場したことによって、フリーは、そしてチリペッパーズは自由に音楽を表現することができた、とも言えるのではないでしょうか?

RHCP、そしてベーシスト・フリーによって切り開かれたミクスチャーというジャンルは近年のミュージックシーンに大きな影響を与えています。少し大げさな表現になってしまうかもしれませんが、スティングレイという1本のベースによって音楽シーンは変えられたのかもしれません。

スティングレイ・ベースの特徴

このベースはどのような特徴を持っているのでしょうか?まずはスティングレイというベースについて知ることからはじめましょう。

アクティブサーキットの先駆け

アクティブイコライザー内臓

スティングレイにはアクティブサーキットと呼ばれる回路が搭載されています。従来のパッシブベースの場合、イコライジングはアンプ側で調整するのが当たり前でした。しかし、スティングレイの場合、プリアンプとアクティブイコライザーを内臓することによって、プレイ中に手元でイコライジングをすることが可能となっています。プレイ中に自在に音色を操ることができる…まさに多くのベーシストにとって夢のようなモデルとしてスティングレイは登場し、今日ではさまざまなメーカーで採用されているシステムとなっています。
アクティブとパッシブってどう違うの?

1ハムバッカーピックアップ

スティングレイ:1ハムバッカーピックアップ

スティングレイのルックス、サウンドの大きな肝となるのがピックアップです。スティングレイが誕生した70年代から80年代には2つ以上のピックアップを搭載したベースが主流となっていました。たしかにピックアップを複数の位置に取り付ければそれだけサウンドを多彩なものにすることができます。しかし、スティングレイの場合、前述のアクティブイコライザーを搭載することによって、1つのピックアップで十分に多彩なサウンドを生み出すことが可能です。また、あえてピックアップを1つだけに絞ることによって、シンプルな操作性を実現することができました。つまり、誰でも簡単に多彩なサウンドを操ることができるベースとなっているのです。

マイナーチェンジ

1970年代に誕生してから現在にいたるまで、基本的なボディシェイプやデザインに大きな変化はありません。しかし、時代に合わせてスティングレイにもマイナーチェンジが施されてきました。もっとも大きなポイントがイコライザーの変更でしょう。最初期のモデルでは高域と低域のみを操作することのできる2バンドイコライザーが採用されていました。しかし、90年代にはより早く中域をカット、またはブーストすることへの需要が高まったことから、90年代には中域を追加した3バンドイコライザーに変更されています。このほかにも、ブリッジの構造、ジョイントプレートの形状および、ボルトの数、電池ボックスの形状など、さまざまなマイナーチェンジが繰り返され、スティングレイは少しずつ進化を続けています。

スティングレイ・ベースを使用する主なベーシスト

フリーの他にも、スティングレイは世界を代表する多くのベーシストのサウンドを支えてきました。その一部をご紹介しましょう。

  • Robert Trujillo ロバート・トゥルージオ(Metallica)
  • John Myung (Dream Theater)
  • Phoenix (Linkin Park)
  • Mike Herrera (MxPx)

ルイス・ジョンソン

https://www.youtube.com/watch?v=DBFKkiju5N0

元祖Mr.スティングレイといえば、ルイスジョンソンでしょう。スティングレイは彼のために生み出された、とも言われるほどにこのベースの特徴を最大限に生かしたサムプレイやスラップが魅力的です。ルイスはセッションミュージシャンとして活躍していましたので、さまざまなアーティストの作品でそのサウンドを聞くことができます。中でもスタンリー・クラークの「タイム・エクスポージャー」における怒涛のスラップはベーシストであれば一度は聞いておくべきでしょう。

バーナード・エドワーズ


Chic – Le Freak • TopPop
chicのベーシスト。いわゆるファンクやディスコといったジャンルに分類されるバンドですが、こういったジャンルのベーシストには珍しくピックも使うことのあります。

クリフ・ウィリアムズ


AC/DC – Highway to Hell
スティングレイといえば、スラップを奏法をメインとするベーシストのイメージが強いですが、その真逆のスタイルでロックンロールを奏でるAC/DCのクリフ・ウィリアムズも愛用者の一人です。爆音のツインギターの中でもしっかりと抜けるサウンドはまさにスティングレイならではのものと言えるのではないでしょうか。彼のサウンドを聞けば、スティングレイが幅広いジャンルで活躍することのできるベースであることをより理解することができることでしょう。ハードロックのお手本のようなピック弾きによるシンプルなプレイスタイルです。

ジョン・ディーコン


Queen – Another One Bites the Dust (Official Video)
QUEENのベーシスト「ジョン・ディーコン」もスティングレイの名手の一人です。ボーカルのフレディ・マーキュリーなど個性派集団バンドであるクイーンにおいては地味な存在といえるかも知れませんが、まさに縁の下の力持ちといった的確な演奏でバンドを支えています。バラードなどでのメロディアスなフレーズも印象的です。

スティングレイ・ベースのラインナップ

StingRay

StingRay

正真正銘、ミュージックマンによる本物のスティングレイです。


Ernie Ball Music Man StingRay 4 Bass: Joe Dart Demos

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Classic StingRay

クラッシックスティングレイ4

1976年に、最初に誕生したスティングレイを復刻したものがClassic StingRay(クラッシック・スティングレイ)です。現行のモデルでは廃止されてしまった弦の裏通し仕様や、ブリッジのミュート機構、そして2バンドイコライザーまで再現されたモデルです。2バンドイコライザーならではのシンプルな操作性や、裏通しでしか出すことのできないボディの鳴り、豊かな倍音が魅力的なモデルです。

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StingRay5

スティングレイ5

名前の通り、スティングレイの5弦モデルという位置づけのベースですが、単に弦を1本追加するだけでなく、ボディシェイプやそれぞれのパーツを新たに設計し直すことによって、非常に完成度の高い5弦ベースとなっています。スターリンと同様のピックアップのパラレル・シリーズ・シングルの切替機能も搭載されています。

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スティングレイ以外のモデル

ミュージックマンで作られているスティングレイ以外のベースを3モデル紹介します。どちらのモデルもスティングレイ同様にハムバッキングタイプのピックアップがブリッジよりに搭載されており、これがミュージックマンのベースの大きな特徴といえるでしょう。

STERLING(スターリン)

STERLING

スティングレイと比較して若干小ぶりなボディと細身のネックを持つモデルです。こちらもハムバッキングタイプのピックアップが搭載されています。前述の通り、ハムバッキングタイプのピックアップはシングルコイルのピックアップを2つ並べて出来ているのですが、このモデルは、これらの接続の仕方をパラレル(並列)、シリーズ(直列)と切り替えることができ、さらにシングルコイル1つのみの仕様にも切り替えができます。当然アクティブサーキットも搭載されているので、スティングレイ以上の幅広い音作りが可能になります。

ちなみに、このスターリンという名称はミュージックマンの廉価版ラインのブランド名にもなっており、このスターリンブランドでもスティングレイ・タイプのベースを作っているのです。つまりミュージックマンブランドのスティングレイとスターリン、スターリンブランドのスティングレイ(rayというモデル名になっています)などが存在するのです。楽器を選ぶ際には気をつけましょう。
ミュージックマン・タイプのベース特集

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BONGO

musicman-bongo

2003年に登場したBONGOは、24フレット/4バンドEQ・18Vアクティブ・プリアンプ/2ハムバッカーというスペックの、プレイアビリティを追求して生み出されたラインナップ。人間工学に基づいてデザインされた独特の曲線的なボディシェイプが特徴的です。2ハムバッキングのものがよく知られていますが、スティングレイと同様の1ハムバッキングのものもあります。

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Ernie Ball Music Man のギターについて – エレキギター博士