「フェンダー・ジャズベース(ジャズベ)」は、1960年のデビュー以来世界各地の音楽のボトムを支えてきた「ベース・レジェンド」です。また誕生から半世紀以上を経た現在に至るまで、おおよそベースが必要となる音楽のすべてに使われており、「エレキベースのスタンダード」の座を他のどのベースにも譲っていません。
ジャズベースのこうした特徴は、後に続くさまざまなベースの手本となりました。その意味で「現代エレキベースの祖」とも言えるでしょう。
現在フェンダーブランドからは、
以上の3拠点で作ったジャズベースがリリースされています。コロナ工場とエンセナダ工場はフェンダー社の自社工場ですが、日本の工場はフェンダーとは別会社で、フェンダーの依頼を受けたOEM製造(相手先ブランド名製造)をしています。フェンダーではそれぞれ工場ごとに生産するモデルを割り当てており、いわゆる「フェンダーUSA」は、コロナ工場で作られるもっともグレードの高いラインナップです。今回は、この「フェンダーUSAジャズベース」に注目していきましょう。
[ALEXANDROS] – KABUTO (MV)
磯部寛之氏(いそべひろゆき。ALEXANDROS所属)は、長らくフェンダー・ジャズベースでバンドのルーヴを打ち出しています。ステージで1974年製、黒のブロックインレイ、赤べっこうピックガードが目印のヴィンテージ・ジャズベースを使用したこともあります。
フェンダー・エレキギターの種類 – エレキギター博士
フェンダー全体ではさまざまなシリーズ名でジャズベースが作られます。このうちモデル名に「アメリカン」や「USA」が付けられるものが、USAコロナ工場で作られる、いわゆる「フェンダーUSAジャズベース」です。
現在のコロナ工場は
という3つのシリーズを担当しているほか、一部のアーティストモデルも作っています。
ジャズベースの価格帯は¥185,000から¥273,200(フェンダー公式サイトより。以下同様)までで、メキシコ・エンセナダ工場製ジャズベースの価格帯、¥69,300から¥187,750と明瞭に住み分けています。
図:USAとMEXジャズベースの価格帯(2018/9時点)
なお、現在のフェンダーで「スタンダード(標準)」という名がつけられているのは、メキシコ・エンセナダ工場製の「スタンダード・ジャズベーズ(¥92,500)」です。現在のラインナップではメキシコ製品がスタンダード・モデルであり、USA製品は上位グレード、または高級品という扱いだということがわかりますね。
USA工場製、MEX工場製ともに、当然ながら「フェンダー」というブランドでリリースされています。これに対していわゆる「フェンダーUSA」や「フェンダーMEX」という言い方は、
という「グレード分け」の言い方として定着しています。フェンダーの楽器はあまりにも種類が多いので、このように分けて言うと便利な場合が多いんです。
製品のグレードに上下こそあれ、USA工場/MEX工場ともに同じ工作機械を持ち、ともにフェンダー・カスタムショップのマスタービルダーによる技術指導が定期的に行われています。現在では、USAとMEXで「加工技術や仕上がりの精度といった製造技術に差はない」という評価が一般的です。
SHISHAMO「明日も」
高校生バンドからメジャー入りし、順調に活躍を続けるガールズバンド「SHISYAMO」。この曲は転調で頭がこんがらがらないようにするのが肝要です。ベーシスト松岡彩氏は左利きながら「ベースを弾くときだけ右利き」とのことです。
同じフェンダーのジャズべと比較することで、「USAジャズベースとは何か」を考えてみましょう。
この2機は「60年代製ジャズベのイメージ」という基本コンセプトが共通していつつも、6万円以上の価格差が生まれています。どんなところに違いがあるのか、どんな共通点があるのか、ちょっと見てみましょう。
上:American Original ’60s Jazz Bass、下:Road Worn ’60s Jazz Bass
両機とも、「アルダーボディ+メイプルネック」というところが共通です。フェンダーでは同じ木材をそれぞれの工場に振り分けているといわれています。「上位モデルには木目の美しいものが回される」といううわさもありますが公式に発表されている話ではなく、木材の品質に違いはないようです。
いっぽう指板には違いが出ており
となっています。パーフェローも高級な銘木なんですが、ベースの指板材としてはローズウッドの方が好まれているのが現状です。その意味で、USAの方が付加価値の高い仕様です。
両機ともボディの塗装には「ニトロセルロースラッカー」が使用されています。ラッカー塗装には独特の質感があって触り心地が良く、ヴィンテージスタイルのベースではほぼ必須と見られている仕様です。強度に課題が残るラッカー塗装ですが、アメリカン・オリジナルでは下地処理からいろいろ見直すことで、極薄でもしっかりした塗膜を作っています。
いっぽうネックの塗装では、違いが生まれています。
トラッドなスタイルの楽器を好む人は「ラッカー塗装ネックの感触が好き」と思うことが多いようです。ラッカー塗装は手間と時間がかかり、それが価格に反映されます。いっぽうウレタン塗装には「強固で安定しており、多少ラフに扱っても変質がほぼない」というメリットがあり、ネックの塗装がラッカーかウレタンかはグレードだけでなく好みが分かれるところでもあります。
弾き心地については、大きめの違いがあります。第一に弾き心地を左右するネック仕様については、
USA/American Original | MEX/Road Worn ’60s | |
ネックシェイプ | スリムな「’60s Cシェイプ」 | 標準的な「Cシェイプ」 |
ナット幅 | 1.48インチ | 1.5インチ |
指板R | 9.5インチ(平たい) | 7.25インチ(丸みがある) |
フレット | ヴィンテージ・トール(細く、背が高い) | ヴィンテージスタイル(細くて低い) |
表:USA×MEXネック仕様比較
このようになっており、USAは60年代の寸法を再現した比較的スリムなネックに対し、「平たい指板と高めのフレット」が採用された「現在の価値観で弾きやすいと考えられている仕様」になっています。対するMEXは標準的なネックに、60年代当時の仕様「丸い指板と低いフレット」が採用されています。
サウンドの要、ピックアップについては
となっています。「Pure Vintage ’64」ピックアップは、使用するワイヤーからマグネットに至るまで、1964年当時の仕様をそのまんま再現したものです。「Standard Vintage」ピックアップは「標準的なヴィンテージスタイルとはこういうものです」、というサウンドとルックスになっているという設計です。「Pure Vintage ’64」の方がこだわりの強い設計で、そのぶんだけ付加価値が高いという扱いです。
フェンダーの場合、グレードの差は「設計や仕様の付加価値」で決まり、木材のグレードや加工精度に違いはありません。今回の比較では、ネック塗装(ラッカーかウレタンか)とピックアップ、そして弾き心地に大きな違いがありました。
USA製「アメリカン・オリジナル・ジャズベース」には、こうした付加価値が乗っている、というわけです。
グッドモーニングアメリカ「未来へのスパイラル」10th & 5thアニバーサリーMV【Official】
ベーシストたなしん氏の愛用する1961年製ジャズベースは、アマチュア時代にかなり無理をして手に入れたのだとか。ベーシストでは珍しく、ジャズタイプの小さめピックを使用し、MASTER 8 Japanからシグネイチャーピックをリリースしています。
では、フェンダーUSAジャズベースのラインナップを見てきましょう。現在3つのシリーズで展開されていますが、共通して
「古き良きフェンダーのトーンを大切にしながらも現代を見据えた設計になっている」
のがポイントです。また、全モデル安全な運搬をサポートする「ハードケース」が付属します。