「ヘッドレスベース」とはその名の通り、ネックの先に本来あるべきヘッドを持たないベースのことです。「弦楽器には必ずヘッドがある」という常識をスタインバーガー社が覆したのは1980年のことで、ヘッドレスと言えばスタインバーガー、という時代が長らく続きました。時が流れて現代では、標準的な弦長のままギターのギグバッグに収められるコンパクトなサイズ感や、新しさを感じさせる斬新なルックスが高く評価され、いろいろなブランドがヘッドレス市場に参入しています。そこで今回は、近年ますます注目度を高めているヘッドレスベースについて、いろいろ見ていきましょう。
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シルエットだけでそれとわかる絶大なインパクトが、ヘッドレスにはある。
EGO Guitars「EGO BASS 4 Hellish」
ヘッドレスベースにはヘッドが無いので、ネックの先にペグが付けられません。それではどのように弦を張って、チューニングするのでしょうか。EGO Guitars「EGO BASS 4 Hellish」を例に、ヘッドレスベースのおおまかな構造をチェックしてみましょう。
ネックの先端に設置される固定具に弦を通し、ネジを締めて固定している。
ヘッドが無いだけに「ヘッド部」と言えないところがややこしいですが、ネック先端部にはペグの代わりに弦を固定する部品が設置されます。「弦の巻き数」という概念が存在しないため、誰が弦交換してもナット部の弦角度はいつも同じに保たれます。
また弦を巻きつけることがないので「巻きムラ」もなく、チューニングが安定しやすくなるのも大きなメリットです。反面、モデルによってはクリップチューナーを使うことができないので、注意が必要です。
ネック先端を背面から見たところ。先端部に厚みを持たせることで、目に頼らずに1フレットのポジション感をキャッチできる。しかしこのモデルの場合、クリップチューナーで挟めるスペースはない。ちなみに、丸い金属部品は専用器具を介してギタースタンドを使用するためのもの。
ブリッジ部分にペグの機能が備わっている。
ヘッドレスベースには多くの場合、ペグと一体化したブリッジが搭載されます。ボディ末端から飛び出ているネジを回すとボールエンドが後退し、チューニングされる仕組みです。もちろん弦高調整やオクターブ調整も可能で、独自設計のブリッジを採用しているブランドもあります。
ブリッジ側でチューニングするため、多くのヘッドレスギターはボディエンドがブリッジまで後退する。
ヘッドレスベースはヘッドの分だけ全長が短くなり、ほとんどの場合ギター用のギグバッグにも収まります。またへッド側の重量が大幅に軽減され、一方でペグの分だけブリッジの重量が増す重量バランスを整えるため、ボディが小型化します。弦数が増えても多少弦長が伸びても、ファンフレット化で低音弦が拡張されても、軽くて取り回しが良く持ち出しがラクチンです。
そして、ヘッド側の重量がすっぽりと抜けるので、多弦化してもヘッド落ちはほぼ起きません。ヘッドレス化によってベーシストは楽器を適正位置に保持する苦労から解放され、ネクストレベルの演奏性を味わうことができます。
弦楽器のヘッド形状やその大きさは、音響性能を大きく左右すると考えられています。そんなヘッド自体を否定するヘッドレスは「ヘッド部の共振がない、ヘッドレス特有の明瞭な響きが得られる」と考えられています。ヘッドの鳴りが無いのはデメリットになるどころか、むしろ普通のベースでは物理的に不可能な響きが得られるわけです。
また楽器各部の共鳴同士が打ち消し合ったり不必要に増幅したりすることもかなりのレベルで軽減されるため、どのポジションでも均一なタッチと明瞭な音程感が得られやすくなります。
では、さまざまなブランドからリリースされているヘッドレスベースを見ていきましょう。ネックの先端でルックスを主張しにくい分だけ、各社がそれぞれに特徴的なボディ形状を考案しているのがわかります。
左から、EGO BASS 4、EGO BASS 5、EGO BASS 6。
「EGO(イーゴ)」は、イタリアのメーカーMarconi Lab(マルコニ・ラボ)が展開するヘッドレスギター/ベースのブランドです。演奏性とサウンドのみならず、美観やメンテナンス性にまで深くこだわった斬新な設計が特徴で、むしろ特徴だけで構成されていると言っても過言ではありません。弦長32インチというショートスケールでありながらナット部とブリッジ部との独自設計によって34インチと代わらない弦張力を確保しており、パッシブで5弦を鳴らしてもクッキリとした音像が得られます。
《高機能な個性派ヘッドレス》EGO Guitarsのベース徹底紹介
左から、EHB1265MS、EHB1506MS、EHB1500、EHB1005MSL、EHB1005SMS。
Ibanezの「EHB」シリーズは、ボディ形状から金属部品、プリアンプに至るまで新たに開発した入魂のヘッドレスベースです。低音弦側に向けて薄くなっていくボディは、立っても座っても弾きやすい抱えやすさと重量バランスを考慮した設計しています。ヘッド側では弦を裏側からのネジ締めで固定させるため、スッキリとまとまった外観になっています。専用のモノレールブリッジは弦間ピッチの微調整まで可能で、プリアンプは中域の周波数を無段階で選択できます。フィンガーランプが付属するのも嬉しいポイントです。
EHBシリーズを…
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国産の雄Bacchus(バッカス)からは、若きユーチューバーFami。女史のシグネイチャーモデルがリリースされています。オリジナルインレイをあしらったパープルハート指板とオリジナルのピックガードで渋くも可愛らしくもありますが、Aguilar社製プリアンプ「OBP-2」はボリュームノブのスイッチでON/OFFでき、パッシブ用のトーンとシリーズ/パラレル切替スイッチも追加されており、守備範囲が大幅に拡張されています。
《質実剛健》Bacchus Guitars(バッカス)のベースについて
https://youtu.be/6zMtns1vh-QAimer「残響散歌」をアレンジしてベース弾いてみた / Fami。(Bass Cover)
アレンジ力もさることながら、この弾きっぷりは見事。
WOODLINE5AC-HL Famiを…
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LCB-001 Birdseye Maple Veneer Top #Purple Blue Burst
LORE CROW(ロア・クロウ)はエクストリームなロックミュージックに良好な、製品のクオリティと価格のバランスの取れた楽器を企画する日本のブランドです。今のところのラインナップが2タイプの7弦ギターと5弦ヘッドレスベースだというあたり、ハード/ヘヴィ志向に嘘いつわりない感じです。
5弦ヘッドレス「LCB-001」はスワンプアッシュ製ボディにハードメイプル製ネック、ウェンジ製指板という木材構成のボルトオンモデルです。いらない要素を削ぎ落とすというコンセプトながらプリアンプはしっかり多機能で、3バンドEQの中域は400Hzと800Hzが選べます。
上:SPIRIT XT-2 STANDARD LEFT-HANDED、下:SPIRIT XT-2 STANDARD BASS
Steinberger(スタインバーガー)こそはヘッドレスの歴史を築いた第一人者であり、斬新な発想とは何たるものかを世界に知らしめた、モダンベースの名門です。かつては超高額な高嶺の花でしたが、現在はギブソン傘下で求めやすい価格のモデルをリリースしています。左用もあり、4弦と5弦、またキルテッドメイプルトップ仕様から選べます。
専用のダブルボールエンド弦は選べる弦メーカーが少ないのか注意点ではありますが、工具を全く使用せずに弦交換できる画期的なシステムです。折り畳み可能なレッグレストが装備されているので、座って演奏するのも問題なしです。
Spirit XTシリーズを…
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CR5 Radius Bass Guitar
NS Design(NSデザイン)はヘッドレス仕様の生みの親、ネッド・スタインバーガー氏が1990年に設立したメーカーで、バイオリンやヴィオラ、アップライトベースなど幅広く製品を展開しています。「RADIUS(ラディウス)」と名付けられたヘッドレスベースは、その名が暗示するように湾曲したボディが特徴です。ボディの剛性と演奏時のフット感を向上させる斬新な設計です。
弦の交換法も独特で、ボールエンドをヘッド側に挿入し、反対側をブリッジに差し込んでペグを回すと勝手に固定されます。弦交換が短時間でできるほか、一度外した弦もすぐに張り直すことができます。
なかなか珍しい形状のボディには深い理由が。
Boden Bass Original 5-string
.strandberg*(ストランドバーグ)は人間工学に基づいた設計理念で「ヘッドレス+ファンフレット+多弦+超軽量」という新しいジャンルを提唱し、世界でヘッドレス仕様を再評価させた立役者と言えるブランドです。特徴的なボディ形状はいろいろな姿勢での演奏を想定しており、立っても座っても、立てても水平でも弾きやすい設計です。台形の断面を持つ独特のネックは、親指をネック裏に置いて弾くのにたいへん良好な斬新な設計です。エレキギターよりも軽いという驚異的な軽量化も達成しており、長時間弾いてもラクチンです。
ヘッドレスにファンフレット、.strandberg*のベース「The Boden Bass」
Zi-3-4 Burl Maple Headless
国産ハイエンドベースの老舗、TUNE(チューン)からは、スルーネック仕様のアクティブヘッドレスがリリースされています。スルーネックのヘッドレスベースはなかなか珍しく、本記事ではこのモデルだけです。同社の人気機種「Zi」を出発点としており、すでに実績あるモデルの良さはそのままに、ヘッドレス特有のスッキリとしたサウンドと圧倒的な軽量化を達成しています。
以上、ヘッドレスベースに注目していきました。取り回しの良さと重量バランスの面で圧倒的なアドバンテージがあり、またヘッドレスならではのサウンドもあります。トラッドなベースでは決して得られない新しい感触、ぜひ実際にチェックしてみてください。
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