エレキベースの代表的モデルといえば、フェンダーのジャズベース、そしてプレシジョンベースを思い浮かべる方がほとんどでしょう。特にプレシジョンベース、通称「プレベ」は、現代のエレクトリックベースの基本形として音楽の歴史を大きく変えることになった名器で、もちろん現代においてもその独特のサウンドと使い勝手の良さから多くのベーシストに愛用され続けています。そんなプレシジョンベースの魅力についてお話してみたいと思います。
まずはエレクトリックベースの代表モデルとして今日も愛され続けているプレシジョンベースの特徴、そして変化からその魅力に迫ってみましょう。
プレシジョンベースは1951年、アンプで音を増幅することによって大きなステージでの演奏を目的として誕生しました。エレキベースが誕生する以前、ジャズなどのジャンルで低域を担当していたのはコントラバスでした。ボディサイズも非常に大きく、長いスケールにフレットレス指板であったことから、非常に高い演奏技術が要求されました。それに対して、プレシジョンベースでは音をアンプによって増幅するのでボディサイズを大きくする必要はありません。これによってコントラバスにはないプレイアビリティの高さを実現しているのです。
さらに短いスケールの指板にギターと同じように金属製のフレットを打ち込むことによって、誰でも簡単に正確な音程での演奏が可能となりました。これがプレシジョン(正確な)ベースという名前の由来になったと言われています。もし、レオフェンダーがプレシジョンベースをこの仕様にしなければ、今でもエレキベースは非常に高い演奏技術が必要な特殊な楽器となっていたかもしれません。
現在のプレシジョンベースのボディ
1957年以前は、ボディにコンター加工(肘があたる部分を滑らかに削る加工)されていない一枚のアッシュ材、ネックにはメイプルが使用されていました。指板という概念はまだ無く、ネックに直接フレットを打ち込んだワンピースネックでした。1950年代後半から、指板にローズウッドが採用されたモデルも登場し、ボディにはアルダー材が使用されカラーリングも豊富になっていきバリエーションも豊かになっていきました。70年代に入ると、入手が困難な木材が出るなどがあり、仕様変更等も数多くあり、ボディにアッシュ材やポプラ材を使用したモデルも登場します。結果、重く固いアッシュ材では堅く締まった低音が奏でられ、アルダー材は粘りのある中低音が魅力となります。木材による音質の変化もプレイヤーのマニア心をくすぐる事となっており、生産本数の少ないモデルは愛好家達の間で当時よりも高価で取引される事も少なくありません。
1957年以前のシングルコイルピックアップは非常にシンプルなサウンドで、荒々しく澄んだ高音域が特徴的です。電気的構造からノイズが出やすいという一面もありました。スプリットコイルピックアップの登場により、電気的な安定度と共に、音質も更に豊かに進化しました。総てのエレキベースの礎がこの「プレベ」には詰まっているのです。
テレキャスター・ベースと呼ばれることもある、1951年製プレシジョン・ベース
最初にレオ・フェンダーによって生み出された初代プレシジョンベースは今日のものとは違った仕様となっていました。ボディシェイプにはこの時点で、現在でもフェンダーベースのスタンダードとなっている左右非対称のダブルカッタウェイが採用されていました。しかしピックアップは現在のプレシジョンベースとは違い、シンプルなシングルコイルピックアップが採用されていました。
最初のスペックチェンジが行われる、1957年までに製造されたオリジナルプレシジョンベースとは、スペックが大幅に異なっています。当然、サウンド面の特徴も大きく異なっています。そこでヘッドデザインにギターのテレキャスターと同じものが採用されていたことから、1957年以降のモデルと区別するために「テレキャスター・ベース」と呼ばれることもあります。
58年スタイルを再現した American Vintage Precision Bass
1950年代後半にはすでに新しい楽器の1つとして大きな成功を収めていたプレシジョンベースですが、さらに楽器としての完成度を上げるため、1957年の中ごろに大幅なスペックチェンジを実施します。まず、よりベースらしい太く甘いサウンドを実現するために、高音弦側と低音弦側で独立したコイルを持つススプリットコイル・ピックアップが採用されます。デザインやパーツなどもストラトキャスターに近い機能を搭載したベースへと進化しました。そして1弦毎にオクターブ調整することのできるブリッジや、プレイアビリティをより向上させるためにボディ裏にコンター加工が施されています。さらにヘッドデザインもストラトキャスターと同様のものに変更され、今日のプレシジョンベースの基礎スタイルはほぼ完成しました。
フェンダーは1965年にCBSによって買収されます。これにともなって、フェンダーのほとんどの楽器に大幅なスペックチェンジが実施されます。プレシジョンベースはジャズベースと異なってそれほど大きなスペック変更は施されませんでしたが、より指板のRが緩やかに平らなものになる、といった細かな変更が実施されています。
ロック、ハードロックが流行する1970年代に入ると、エレキベースに求められるサウンドにも変化が起こり始めます。シンセサイザーなどの新しいスタイルの楽器があらゆる場面で仕様されるようになった影響もあり、より分厚いアンサンブルの中でも抜け出すことのできるサウンドが必要とされるようになったのです。同じフェンダーのジャズベースと比較しても、中域寄りで良く言えば温かなサウンドを持つプレシジョンベースですが、抜けの良さという点ではあまり良いとはいえません。そこで、より硬質なサウンドを実現するためにボディ材に重量のあるホワイトアッシュが使用されるようになりました。
63年のスペックを再現した American Vintage’63 Precision Bass
1980年代の中ごろからヴィンテージベースの人気が高まり始めます。そこでプレシジョンベースも1960年代前半以前のスペックに戻されることになりました。ジャズベースの場合はこの頃から少しずつアクティブサーキットなどを採用したモダンスペックのものが登場するようになってきました。プレシジョンベースにも一時期、同様に近代的なスペックを採用したモデルが登場していますが、ジャズベースと比較するとそれほど幅広いサウンドメイクを実現することができませんでしたので、主流となることはあまりありませんでした。
その代わりに、プレシジョンベースならではの温かみのあるサウンドをより活かすために、ヴィンテージ系モデルが人気を集めるようになります。そういった意味ではプレシジョンベースは開発当初から高い完成度の楽器であったと言えるのではないでしょうか?
それでは、それぞれの年代のプレシジョンベースを愛用するベーシストをご紹介しましょう。
ポリス時代からスティングは、57年以前のオリジナルプレシジョンベースをはじめ、さまざまなモデルをプレイし続けています。非常に温かで太いプレシジョンベースならではのサウンドを楽しむことができます。
スティング
グリーンデイのベーシストであるマイク・ダーントもさまざまなプレシジョンベースを使用しています。現在はオリジナルプレシジョンベースのデザインに、スプリットコイル・ピックアップを搭載したオリジナルベースを使用する頻度が高くなっていますが、60年代〜70年代のモデルも多用しています。
マイク・ダーント
https://www.youtube.com/watch?v=8z2M_hpoPwk
70年代のプレシジョンベースの象徴と言えばやはりセックスピストルズのシド・ヴィシャスでしょう。彼に憧れてホワイトボディにブラックピックガードのプレシジョンベースを手にした、という方も多いのではないでしょうか?プレイヤーとしての実力には賛否両論がありますが、彼もまた世界一有名なプレシジョンベース・プレイヤーの一人と言えるのではないでしょうか?
シド・ヴィシャス
プレシジョンベースの魅力をその歴史から探ってみましたがいかがでしょうか?長い歴史を持つプレシジョンベースは現在でも多くのベーシストから強い支持を受け続けています。
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