アイバニーズのエレキベースについて[記事公開日]2015年3月19日
[最終更新日]2020年03月19日

アイバニーズのベース

「アイバニーズ(Ibanez)」は、「星野楽器株式会社(愛知県名古屋市)」が運営するベース/ギターブランドです。前進となる星野書店楽器部(創業明治41年)から数えると110年以上という長い歴史を持ち、今や世界中に製品を流通させるトップブランドの一つとして君臨、始めたばかりの初心者から超絶技巧を誇る達人まで、幅広い層に支持されています。今回は、そんなアイバニーズのベースに注目していきましょう。

アイバニーズのエレキギターについて – エレキギター博士


Thundercat: NPR Music Tiny Desk Concert
抑制の利いたクールな演奏、抑制の利いていないクレイジーなファッションの両面で知られる達人、サンダーキャット氏。氏のシグネイチャー・モデル「TCB1006 」はフルアコ構造の6弦、マグネット/ピエゾ両ピックアップに加え、MIDIのアウトプットもできる超高機能を誇り、ご本人仕様そのままのモデルが受注生産にて流通しています(動画のフィンガーランプは氏が後から付けたもの)。

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1: アイバニーズ・ベースの特徴とは? 1.1: 【デザイン】いちブランドとしてのオリジナリティ 1.2: アイバニーズのオリジナルブリッジ 1.3: 【本体】計算された高い演奏性 1.4: 【回路】サウンドバリエーションの幅を持たせた柔軟性 2: アイバニーズ・ベースのラインナップ 2.1: スリムで軽量なスタンダード「SR」 2.2: 達人仕様「BTB」 2.3: 伝統の末裔「Talman Bass」 2.4: まさかのアップライト「UB804」 2.5: 箱ものショートスケール「AGB」「AFB」 2.6: 復活の個性派「AFR」

アイバニーズ・ベースの特徴とは?

アイバニーズは幅広い製品群を誇り、モデルごとにコンセプトもさまざまです。まずはラインナップ全体を見渡した、だいたいの傾向として見ていきます。

【デザイン】いちブランドとしてのオリジナリティ

BTB846SC Bass Workshop BTB846SC Bass Workshop

アイバニーズ自体はブランド全体を統一するコンセプトを敢えて持たず、楽器ごとあるいはシリーズごとにコンセプトを打ち立てていますが、一貫して「現代」を追い求めた製品企画にこだわっています。その中に「レトロ感」を帯びた物はあっても、有名ブランドのコピーモデルは一切なく、世界的なブランドとしてのアイデンティティを主張しています。また一部の変形モデルを除き、オーソドックスであらゆる音楽性に馴染む、デザイン性の高いスタイリッシュなベースにまとまっています。

アイバニーズのオリジナルブリッジ

ピックアップは他社製品に頼ることの多いアイバニーズですが、ブリッジの設計には並々ならぬ歴史とこだわりがあり、各モデルで自社開発したブリッジが積極的に採用されます。

Mono-Rail V

Mono-Rail V Bridge
Mono-Rail V Bridgeを搭載した「SRFF800-BKS」

各弦のサドルを独立させることで、互いの弦振動の影響を受けにくくする第5世代「Mono-Rail V Bridge(モノレール・ブリッジ:MR5)」は、SRやBTBなど多くのモデルで採用されているアイバニーズの特徴的ブリッジです。ボディトップ側から弦を張る「トップ・ロード」方式を採用しており、スピーディーな弦交換が可能です。

MR5S


Ibanez MR5S bridge

Mono-Rail V Bridgeに左右1.5mmの「弦間ピッチ調整幅」を設けた「MR5S」は、正確な演奏をサポートする精緻なセッティングを模索することができます。「エアロ・シルクMR5」は、アコースティックなサウンドを得るためのピエゾピックアップ内蔵型です。

Accu-Cast B500


Accu-Cast B500 bridge

SRの「スタンダード・シリーズ」で採用される「アキュ・キャスト」ブリッジは、頑丈なベースプレートにブロックサドルが並ぶ、一見オーソドックスなブリッジです。しかし各弦それぞれのサドル後方にボディマウント用のネジが配置されており、このネジで各弦の振動をより直接的にボディへ伝達できるよう設計されています。これもトップ・ロード型で、弦交換の大幅な時短を実現しています。

上位グレードに付けられる「B500」ブリッジは、上記MR5Sと同様、左右1.5mmの弦間ピッチ調整幅が設けられており、自分だけのセッティングを模索することができるようになっています。

Gibraltar III bridge(AGB200)

第3世代「ジブラルタル・ブリッジ」は、アイバニーズの歴史とともに歩んできた伝統的なブリッジです。ギブソン系のベース/ギターに多く採用される「TOM(チューン・オ・マチック)」タイプを踏襲、肉厚で頑丈にすることでサスティンを伸ばし、本体の幅を拡張してオクターブチューニングの調整幅を広く取っています。

【本体】計算された高い演奏性

上から:SR875、BTB20TH5、SRAS7

分かりやすいところでは、

  • SRシリーズ:スリムでバランスの良いボディと細く握りやすいネック
  • BTBシリーズ:ハイポジションの演奏性を保証する深いカッタウェイ、サスティンにも寄与するスルーネック構造
  • SRAS7:フレットの頂点に高さを合わせたフレットレス指板と、ちょっと狭くした弦間ピッチ

というように、アイバニーズのベースはそれぞれのコンセプトに合わせた「演奏性を追求した設計」で作られます。開発に際しては社員による会議だけでなく、プロミュージシャンとのコラボレーションを積極的に展開し、達人なればこそ求めうる高い演奏性の実現に努めています。

【回路】サウンドバリエーションの幅を持たせた柔軟性

アイバニーズのベースは、クセのない使いやすいサウンドを持っています。これにアクティブ回路やその他のさまざまな工夫が加わることでサウンドの幅が広がり、どんな音楽にでも馴染みます。ピックアップ自体はバルトリーニ社のカスタム(特注)ピックアップを採用する例が多いですが、プリアンプ部は一貫して自社開発です。工夫された特殊配線により、よくあるイコライザーのブースト/カットで終わらない、もう一工夫されている回路が多数開発されています。

回路名 機能 採用モデル
EQ Bypass SW. アクティブ/パッシブの切り替えができる。上位機種では、EQのつまみがパッシブ時にトーンポットになるものもある。 SR Prestige/Premium、

BTB Premiumなど

3way mid freq. SW. ブースト/カットする中音域の周波数帯を、3つの中から選べる 「500」以上のSR、SRMS、

BTB全モデルなど

3way Power Tap SW. ピックアップの設定を1)シリーズ(通常)、2)タップ(半分だけ鳴らす)、3)パワータップ(タップだが高出力)から選べる SR300/400
Trim Posts 弦ごとに配備したピエゾピックアップそれぞれの音量を調節できる 全ピエゾピックアップ搭載機

表:アイバニーズ特殊配線の一例


Killswitch Engage – In Due Time [OFFICIAL VIDEO]
メタルコアの代表選手「キルスイッチ・エンゲージ」所属、Mike D’Antonio氏のシグネイチャー・モデル「MDB4」は、ロック魂を絵にかいたようなルックスに加え、敢えてのボルトオンジョイント、こだわりのシンプル操作を大きな特徴としています。ボディトップ側から操作するのは音量と両ピックアップのバランスのみで、トーン回路はボディバック側から操作します。操作する機能を絞り込むことで、ライブ中の操作を減らしてプレイに集中できるようになるわけです。

へヴィロック界の重鎮バンドの1つであるコーンのベーシスト、フィールディもアイバニーズベースの愛用者です。そのキャリアのほとんどを、アイバニーズの5弦ベースと共に過ごしてきました。フィールディトレードマークであるの極端すぎる、と言われるほどの超ドンシャリサウンドは、幅広いサウンドメイクが可能なアイバニーズ・ベースだからこそ実現することができます。

アイバニーズ・ベースのラインナップ

ではここから、アイバニーズ・ベースのラインナップをチェックしていきましょう。まずは各シリーズをざっと見ていきます。これらはグレード分けという面もありますが、むしろ生産地やコンセプトによる分類です。それぞれのモデルがこうしたシリーズのコンセプトに従ってアレンジされ、具体的な製品となっていくわけです。

シリーズ名 特徴
Bass Workshop
(ベース・ワークショップ)
これまで見たこともなかったようなベース、テーマを設定して胸躍るベースを作り、演奏の喜びを広げる、アイバニーズの挑発的な製品開発を楽しめるシリーズ。攻めた設計のモデルが中心だが、高級感と裏腹に意外とリーズナブルなので挑戦しやすい。
Prestige
(プレスティージ)
フレットの両端をキッチリまーるく仕上げる丁寧な作り、緻密なセットアップ、妥協を許さない品質管理で信頼される日本製。レギュラー製品の中ではトップグレード。
Premium
(プレミアム)
オリジナルパーツ、シビアなセットアップ、フレット両端の球面加工、上質な演奏性といったアイバニーズのこだわりを込めた高スペックのベースながら、企業努力によって価格をキュッと圧縮。
Standard
(スタンダード)
比較的お求めやすい価格帯ながら、高い演奏性と使いやすい音へのこだわりは捨てていない。ピックアップやイコライザーなどで独自設計の電気回路を採用するなど、低価格帯だからこそ世に訴える「アイバニーズのアイデンティティ」が体感できる。
Signature Models
(シグネイチャー・モデル)
アーティストさんの求める演奏性やサウンドを実現させるシリーズ。音楽性的に柔軟なアイバニーズ製品群にあって、アーティストさんのパーソナリティが反映されているがゆえ、強い方向性を持つベースもあり、中には100万円近い超高額なものも。

表:アイバニーズ・ベースの5つのシリーズ