《他のどれとも違うオリジナリティ》Gretschのベースについて[記事公開日]2021年8月17日
[最終更新日]2021年08月17日

Gretschのベース

グレッチ(Gretsch)は、1883年に始まる歴史あるブランドです。やはりドラムやギターのイメージが濃厚ですが、音にもルックスにも他のどれとも違う、グレッチのオリジナリティを感じさせるベースをリリースしています。今回は、グレッチのベースに注目していきましょう。


Cheap Trick – When I Wake Up Tomorrow
トム・ピーターソン氏(チープ・トリック所属)ご愛用のホワイトファルコン・ベースは、驚異の12弦仕様です。日本国内では、4弦仕様が入手できます。

Gretchベースの歩み

Gretchベース

長い歴史を誇るグレッチですが、ベース市場への参戦は1961年からと、比較的後発です。振り幅の広いグレッチのチャレンジを、いくつか見ていきましょう。

1961年:折り畳み式「ビキニ・ベース」

いきなりここに行くのが、グレッチのすごいところです。グレッチのベース第一号「6024 Bikini Bass(ビキニ・ベース)」は、ネックを外すことができ、ボディは真っ二つに折り畳める、保管と運搬に優れた設計でした。同じコンセプトでギターとギター&ベースのダブルネックも発表しましたが、「音が悪い」と不評で翌年すべて廃盤となりました。

1962年:6070「カントリー・ジェントルマン・ベース」

次に発表された「6070」は、ダブルカッタウェイの薄型ホロウボディにロングスケールのメイプルネックを取り付け、ピックアップは1基ながら3ポジショントーンスイッチやミュートスイッチなどで多機能化させた優秀なベースで、そのエレガントさから「カントリー・ジェントルマン・ベース」と呼ばれました。ショートスケールやピックアップ2基搭載などバリエーションも広がりましたが、1972年に廃盤となりました。

1978年:「TK300」

ショートスケール、ミニハムバッカー1基、ソリッドボディの「TK300」は、70年代における近未来風カクカクのデザインがポイントです。すぐに廃盤となり「ビキニ・ベース以上の失敗作」と揶揄(やゆ)されましたが、現在では知る人ぞ知る激レアベースです。近年では人気ベーシスト山本連(やまもと・れん)氏が入手したことで、注目されました。


BC HOME SESSIONS #008
グルーヴ・マスターの異名をとる山本連氏。弘法筆を選ばずとは言いますが、このベースが不人気だったのが信じられませんね。

Gretschベースの特徴

グレッチの製品は特徴しかない感じですが、あえてその特徴をいくつかピックアップしていきましょう。

「グレッチを選んだ」という時点で、相当かっこいい

G6136B-TP Tom Petersson Signature Falcon

グレッチのベースは、とにかく刺さる人には深々と刺さる、そうじゃなくても認めざるを得ない、ルックスの強烈なかっこ良さを持っています。一方でサウンド的にもイメージ的にも、JBやPBなどいわゆる「王道」をしっかり外した、完全なる独自路線を貫いています。ロックンロールやカントリーで特に活躍できるけれど万能な楽器とは見られていない、という不器用さもひとつの魅力です。自分のベースとしてグレッチを選ぶ、その選択自体がアーティストとしての主張になります。

「ショートスケール」がむしろ多数派

グレッチの歴史上、ショートスケールのベースは当たり前の存在でした。現代においてもベースのラインナップ6モデル中、ショートスケールは4モデルもあります。ホロウモデルなら本体も軽いし、体格に自身のない人が選ぶベースとしてかなり良好です。また指が届きやすく弦が柔らかくなるので、派手なプレイがしやすく、チョーキングなどのテクニックも使いやすいのがメリットです。日ごろロングスケールを愛用している人も、ショートスケール特有のテンション感やサウンドに面白みを感じることができるでしょう。

ハムバッカーの太い音

グレッチのハムバッカー・ピックアップは、ギター用ハムバッカーの名機「フィルタートロン」の遺伝子を受け継いだ、重すぎないふくよかさのあるトーンが特徴です。音が太く丸く出てくれるので、ピッキングのタッチが整いやすいのがメリットです。


Alabama Shakes – Guess Who [Bass Cover]
丸く、柔らかく、そして重すぎないトーン。小編成のバンドや生楽器との相性が良さそう。

Gretschベースのラインナップ

では、ラインナップをチェックしていきましょう。6モデルあるラインナップは、日本製の上位モデルとアジア製のエレクトロマチック(Electromatic)シリーズで構成されています。

G5440LSB Electromatic Hollow Body Long-Scale Bass

Gretsch G5440LSB

「G5440LSB」は、シングルカッタウェイ、ホロウボディ、弦長34インチ(ロングスケール)のモデルです。ボディは5層のメイプルで作られているため頑丈にできており、大音量での演奏やドライブペダルの使用においてもハウリングに悩まされにくい設計です。

ピックアップは通常より出力を増した「ブラックトップ・フィルタートロン」を2基備えます。操作系は3WAYセレクタースイッチ、ピックアップ各個のボリュームノブ、マスタートーン、そしてこれらで設定した音を一括操作するマスターボリュームです。ソリッドボディのベースにはない重すぎない音色が持ち味で、歌ものとの相性が特に良好です。トーンの調整しだいで、モータウンを感じさせる丸い音色も得られます。

G5442BDC Electromatic Hollow Body Short-Scale Bass

Gretsch G5442BDC

「G5442BDC」は、ハイポジションを攻めやすいダブルカッタウェイ、取り回しの良い薄型のホロウボディ、弦長約30インチ(ショートスケール)のモデルです。ボディ構造と電気系は上記「G5440LSB」と共通ですが、ダブルカッタウェイとショートスケールの織りなす無上の弾きやすさが持ち味です。

「ブラックトップ・フィルタートロン」ピックアップにはじゅうぶんな出力がありますが、弦長とボディ容量のぶんだけ、「G5440」と比べて気にしすぎなくてもよい程度に低域の押し出しが抑えられます。

G2220 Junior Jet Bass II

Gretsch G2220 Junior Jet Bass II

「G2220ジュニアジェット・ベースII」は、シングルカッタウェイのソリッドボディ、弦長約30インチ(ショートスケール)のモデルです。ショートスケールながらハムバッカー・ピックアップを2基備えるソリッドボディのため積極的な音作りがしやすく、がっつり歪ませたロックなサウンドメイクも余裕です。

ショートスケールは体格に恵まれなくても指が届きやすく、またバスウッド製のボディは軽量で疲れにくいので、初めてのベースとして良好です。


Royal Blood – Out Of The Black
イギリスで「王家の血」を名乗る、勇気あるバンド「ロイヤル・ブラッド」。ベースボーカルとドラムのみという編成で、1stシングル、1stアルバム共に全英1位を記録しました。

G6136LSB White Falcon Hollow Body Bass

G6136LSB White Falcon

「G6136LSB」は、世界で最も美しいギターと言われる「G6136 ホワイトファルコン」のベース版です。最高級モデルの名にふさわしい、全身真っ白の本体にゴールドスパークルのバインディングが走る、たいへんゴージャスなルックスです。ボディは薄型ですが幅は広く、弦長も34インチあり、なかなかの大きさです。

グレッチでは高級モデル御用達のTVジョーンズ製ピックアップを2基備え、ピックアップ各個のボリュームとマスターボリューム、3WAYセレクタースイッチ、3WAYマスタートーンスイッチ、スタンバイスイッチを備え、さまざまな音色が得られます。

マスタートーンスイッチはグレッチ特有の回路で、バイパス、ちょっと絞る、思い切り絞る、という3段階のトーンをスイッチで切り替えます。


Gretsch Guitars G6136LSB White Falcon Bass Guitar White
この人は決して小柄なわけではありません。かなりでっかいベースだと言えるでしょう。

G6199 Billy-Bo Short Scale Bass

Gretsch G6199 Billy-Bo

グレッチ自ら「この世のものではない(out of this world)」と言うほど、見る者を圧倒するインパクトを持つ「G6199ビリー・ボ」は、「G6199 Bill-Bo Jupiter Thunderbird」のベース版です。基本設計はギター版をおおむね受け継いでおり、メイプルトップ&マホガニーバックのボディにマホガニーネックをセットイン、ローズウッド指板、TVジョーンズ製ピックアップ2基、トーンポット回路(マスターボリューム、各個のピックアップボリューム、マスタートーン)です。これこそ特徴しかないベースですが、マスターボリュームがピックガードをぶち抜いている設計は、世界広しといえどこのモデルだけだと言えるでしょう。

「スペースコントロール・ブリッジ」は、ネジを回すことで弦間ピッチを調節できます。

G6136B-TP Tom Petersson Signature 4-String Bass

Gretsch G6136B-TP

「G6136B-TP」は、トム・ピーターソン氏所属バンド「チープ・トリック」のロックンロール殿堂入りを記念して発表された、氏のシグネイチャーモデルです。ホワイトファルコン・ベースを出発点に、弦長は約30インチのショートスケール、フロントに大型シングルコイルを要するピックアップ構成、トーンポット回路(マスターボリューム、各個のピックアップボリューム、マスタートーン)という仕様になっています。

エイジドホワイトの本体にグレッチの最高級モデルを象徴する「キャデラック・テールピース」が輝く、アメリカンな派手さに気品を漂わせるたたずまいです。


以上、グレッチのベースをチェックしていきました。ルックスの強烈なかっこ良さに加え、独特のサウンドもちゃんと持っている、まさに特徴しかないベースです。個性とアーティスト性を楽器でも主張したい人には、メインとしての起用を強烈にお勧めします。王道系のベースがメインだけど、ちょっと違ったテイストのベースも持っていたいというベーシストにも、猛烈にお勧めです。ショップで見かけたら、ぜひ手にとってみてください。