メイド・イン・ジャパンのジャズベースについて[記事公開日]2018年3月19日
[最終更新日]2020年03月19日

メイドイン・ジャパン・ジャズベース Made in Japan Traditional 60s Jazz Bass 3-Color Sunburst

名機「ジャズベース」を発明し、今なお「世界的定番ブランド」の地位が揺るがない「フェンダー」、世界最高水準の出荷基準で流通する作りの良さで、世界的なブランドとして見られている「メイドイン・ジャパン」。この二つが協力したら、まさに「世界最強」ではないでしょうか。そんな熱い思いを胸に、2017年よりスタートしたフェンダーの「メイドイン・ジャパン(MIJ)」シリーズのジャズベースに迫っていきましょう。


#MyFirstFender
あの人もこの人も、日本製のフェンダーで育ったわけです。いじり倒したり大事に大事に使ったり、フェンダーとの付き合い方は人それぞれですね。

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「フェンダー」と「日本」の関係

ギター/ベースの歴史を牽引してきたフェンダーは、日本とどのように関わってきたのでしょうか。時系列順に見ていきましょう。

1965~1982:フェンダー受難の打開策

フェンダー社の創始者、レオ・フェンダー氏は1965年に会社をCBS社に売却、自身もその後数年で退社します。フェンダーという「法人」がなくなって「ブランド」となった、「CBS期(1965~1985)」と呼ばれるこの20年間はまさにフェンダー苦難の時代で、

  • 楽器業界全体の低迷による業績不振に、
  • 合理化を追求した生産体制による品質の低下が加わり、さらに
  • 日本製のコピーモデルが好調に売り上げを伸ばして市場を脅かす

という三重苦の事態でした。
このうち日本製コピーモデルへの対策として、CBSは妙案を講じます。出来の良いコピーモデルにライセンスを与え、「公式コピー」として流通させることにしたのです。これならライセンス料が得られ、モデルによっては生産を依頼することもできる、というわけです。日本企業にとっても「フェンダー」のお墨付きは魅力でした。1982年、神田商会が企画してフジゲンが作る「フェンダー・ジャパン(フェンジャパ)」の誕生です。

1985~2015:フェンダー復活ののろし

CBSがフェンダーのブランドを手放し、フェンダー社が再興したのが1985年です。現在フェンダーUSAモデルを作っている「コロナ工場」はこの時設立、メキシコの「エンセナダ工場」は2年後、1987年に設立されます。エンセナダ工場設立に際し、フジゲンは共同出資しています。フジゲンから技術支援スタッフを召致したり、著名なギター職人を入社させ「フェンダー・カスタムショップ」を立ち上げたりして、蘇ったフェンダー社は新体制を軌道に乗せていきます。

2015~「公式コピー」から「正規品」そして

販売代理店だった山野楽器との契約が終了したのが2015年、このとき「フェンダー・ジャパン」も終了することが決まり、フェンジャパファンからは嘆きの声が上がります。しかし日本製フェンダーは存続、フェンダー「ジャパン・エクスクルーシブ(JE)」という新シリーズとして、フェンダーの日本法人が販売する体制が始まります。日本製フェンダーは、ライセンス生産だった「公式コピー」から、フェンダーの「正規品」へと転身しました。

海外アーティストのシグネイチャーモデルを手掛けることも多くありましたが、フェンダー・ジャパン製品は、基本的には日本国内限定で流通されていました。JEもその例にもれず日本国内で限定的に流通されていましたが、日本製フェンダー誕生35周年の節目となる2017年、その体制が変革します。日本製フェンダーは「メイドイン・ジャパン(MIJ)」シリーズとなり、世界的に流通されるようになったのです。

かつてフェンジャパの「メイドイン・ジャパン表記」は、ネックのジョイント部分に記されていました。このたびMIJシリーズがフェンダーの正規品になったことの一つの証として、「Made In Japan」という生産地情報がUSAとMEX同様、ヘッドの裏に記されることとなりました。
本物が高くて買えないという日本人を支え、またフェンダーの市場を苦しめた安価なコピーモデルが、長い歴史を経て公式コピーへ、さらには正規品となって世界へ流通していったわけです。

「メイドイン・ジャパン(MIJ)」シリーズとはどういうもの?

フェンダー・ジャパン時代は

フェンダー・ジャパン・ジャズベース フェンダー・ジャパン時代のジャズベース

ライセンス生産をしていた「フェンダー・ジャパン」時代から、製品の企画/開発にはある程度の自由がありました。今も残る「エアロダイン」シリーズなどはその代表でしたが、フェンダー社との契約で、
「生産するのは普及価格帯(お買い得なお値段)のヴィンテージ・スタイル(旧式)に限る(アーティストモデルなど例外あり)」とされていました。特に顕著なのは演奏性で、

  • 指板Rは7.25インチ(丸っこい)
  • フレットはヴィンテージ・スタイル(細くて低い)

この二つが標準とされていました。
これは「現代的な感覚で弾きやすい感触」とは違っていましたが、「メイドイン・ジャパン」の信用度をヴィンテージ・ベース自体の人気が後押しし、フェンダー・ジャパンのベースは多いに支持されました。

MIJとなった今

ジャズベース・ヘッド部分

「フェンダー・ジャパン」時代には、神田商会が製品の企画と開発を行なっていましたが、「メイドイン・ジャパン」シリーズはフェンダーの意向が多いに反映されます。MIJ設立に際しては、フェンダー・カスタムショップのマスタービルダー、クリス・フレミング氏が日本支社の代表として着任、実際に工場へおもむいて工法や調整法など事細かな要望を出しています。これによって製品もブラッシュアップされ、「楽器の性能とフィーリングが向上した」と伝えられています。

どれくらいのグレードなの?

MIJシリーズの主力モデルは、フェンダー・メキシコ(MEX)の「スタンダード・シリーズ」と同じくらいの価格帯、だいたい¥10万円近辺の価格帯にいます。そのすぐ上に「クラシック・シリーズ」や「デラックス・シリーズ」などMEXの上位モデルが、すぐ下にMEXの価格破壊機種「プレイヤー・シリーズ」がいます。
MIJシリーズはクラシカルな要素を残したモデルが中心で、MEXのスタンダード・シリーズと合わせることで、普及価格帯におけるヴィンテージ・スタイル(MIJ)とモダン・スタイル(MEX)を揃える、という布陣になっています。

メキシコ・エンセナダ工場で作られるフェンダー・ジャズベース


Fender Bass Shootout – MIJ Walnut Jazz vs. US Vintage P-Bass
MIJウォルナット・ジャズベースとアメリカンヴィンテージ・プレシジョンベースの競演。価格差は倍くらいあるんですが、そんなに差があるようには聞こえませんね。弘法筆を選ばずといいますか、うまい人の要求にしっかりと応えるポテンシャルが、MIJにはあるというわけです。

どんな感じのベースなの?

2018年現在、「メイドイン・ジャパン」名義のジャズベースは、

  • Made in Japan Traditional:各年代の特徴を再現
  • Made in Japan Hybrid:クラシカルとモダンの融合
  • Made in Japan Limited:限定生産の高級機
  • Standard:フェンジャパ時代から支持される「エアロダイン・ジャズベース」

という4つのシリーズからリリースされています。ここでは、その主力である「トラディショナル」と「ハイブリッド」に注目してみます。

Made in Japan Traditional vs Hybrid 上:Made in Japan Traditional 60s Jazz Bass、下:Made in Japan Hybrid 60s Jazz Bass
パッと見た感じどちらも同じジャズベースのように見えるが…

「メイドイン・ジャパン(MIJ)・トラディショナル」、「メイドイン・ジャパン(MIJ)・ハイブリッド」両シリーズは、それぞれの基本仕様がだいたい決まっていて、ボディ材やフレットの有無、塗装の種類などでバリエーションを出しています。それぞれの基本仕様をチェックしてみましょう。

楽器本体

MIJトラディショナル MIJハイブリッド
税抜き価格 ¥90,000~¥108,000 ¥108,000
ボディ材 ’70はアッシュ、’60はバスウッド、フレットレスのみアルダー アルダー
ネック仕様 Uシェイプ、指板R184mm、ナット幅1.5″、ポリエステル塗装 Uシェイプ、指板R241mmもしくは250mm、ナット幅1.515″、サテンウレタン塗装
指板材 メイプルかローズ メイプルかローズ
フレット ヴィンテージ・スタイル(細くて低い) ミディアムジャンボ
産地情報 ヘッド裏 ヘッド裏

表:MIJ楽器本体の比較(価格は2018/10時点)

「トラディショナル」のうち低価格のものは、ボディ材がバスウッドになります。しかしフェンダー・ジャパンではバスウッド製のボディが標準でしたから、むしろ「これこそ日本製フェンダーだ」と言っても過言ではありません。
ネックの仕様は好みが分かれるところです。フェンジャパ時代にはスリムなCシェイプネックが標準的でしたが、MIJでは共通してやや厚みを持ったネックになっています。「トラディショナル」はトラッドなスタイルのネックですが、「ハイブリッド」では現代の感覚で弾きやすい仕様が採用されています。
「トラディショナル」と「ハイブリッド」では、モデルによってボディ材にグレード差があり、またネックのコンセプトが大きく異なっていることがわかります。

搭載パーツと付属品

MIJトラディショナル MIJハイブリッド
ピックアップ ヴィンテージ・スタイル・シングルコイル フェンダーUSAヴィンテージ・ジャズベース
ブリッジ ヴィンテージ・スタイル ヴィンテージ・スタイル
ペグ ヴィンテージ・スタイル ヴィンテージ・スタイル

表:搭載部品の比較

両シリーズとも、ヴィンテージ・スタイルのパーツが使われています。このうち「ハイブリッド」は上位機種という扱いで、USA製のピックアップが搭載されます。いっぽう、仕様書を見る限りブリッジとペグは共通しているようです。

MIJ主軸シリーズのまとめ

両シリーズは、ボディ材とピックアップでグレード差が見られますが、総じて「ヴィンテージ・スタイル」を基調としていることがうかがえます。そこから「ハイブリッド」ではネックに現代的な仕様が採用され、ヴィンテージ・スタイルの雰囲気を持ちながら現代的な演奏性を持った、新しいコンセプトのベースになっているということがわかりますね。

メキシコ製と比べると、どう違う?

こんどは、日本製のベースとメキシコ製のベースとを比較してみましょう。

上:Made in Japan Traditional 60s Jazz Bass、下:’60s Jazz Bass
こちらもパッと見た感じ違いはわからないが…

  • MIJ:トラディショナル60Sジャズベース(¥90,000)
  • MEX:’60Sジャズベース(¥132,750)

いずれも1960年代をイメージした同じコンセプトのジャズベースですが、4万円以上の価格差ができています。さて、どんなところに違いがでているのでしょうか。

MIJ TRADITIONAL 60S JAZZ BASS ’60S JAZZ BASS(MEX)
ボディ材 バスウッド アルダー
ピックアップ Vintage-Style Single-Coil Jazz Bass Standard Vintage Alnico Magnet Single-Coil Jazz Bass
ブリッジ Vintage-Style American Vintage Bass
ペグ Vintage-Style American Vintage Reverse Open-Gear Bass
ピックガード 3層 4層
ドットインレイ ホワイト パーロイド

表:MIJとMEXの、主要な仕様の比較

まず価格差の出やすいところを比較してみます。かなり近いコンセプトのベースですが、やはりいろいろなところにグレードの差が見られます。低価格モデルで大いに使用されるバスウッドは、フラットな音響特性が見直されて超高級機に使用される例も見られます。しかし60年代式ジャズベースのボディ材としては、アルダーの方が好まれています。ピックアップについては、「’60S(MEX)」の方がこだわりの深い作りになっているようです。
ブリッジとペグについては両機ともヴィンテージ・スタイルとなっていますが、「’60S(MEX)」ではUSA製のちょっとグレードの高い部品が採用されています。「’60S」ペグの「リバース(Reverse)」は、回す方向が現代の標準と「逆(リバース)」だった、という当時の仕様を再現しています。

現在ではフェンダーUSA「アメリカン・ヴィンテージ」シリーズのラインナップはいったん終了、同「アメリカン・オリジナル」シリーズへ置き換えられていますが、

  • ピックアップやトーンコンデンサなど電気系
  • ブリッジやペグなど金属系
  • コントロールノブやピックガードなどプラスチック系

といった幅広い「ヴィンテージ系パーツのシリーズ名」として存続しています。
ピックガードとポジションマークについても、ちょっとしたグレード差がついているように感じられます。

続いて、ネック仕様を比較してみましょう。

MIJ TRADITIONAL 60S JAZZ BASS ’60S JAZZ BASS(MEX)
ネックシェイプ U C
指板材 ローズウッド パーフェロー
指板仕様 指板R7.25インチ(184.1mm)
低くて細いフレット
ナット幅1.5インチ(38.1mm)
同左
フレット ヴィンテージ・スタイル(低くて細い) 同左
ナット材 牛骨 人工骨

表:MIJとMEX,ネック仕様の比較

最も大きな違いは、ネックシェイプと指板材です。MIJは全機種共通してやや厚みのあるUシェイプ、「’60S(MEX)」では一般的なCシェイプとなっています。MIJではローズウッド指板が健在ですが、国際条約の関係でUSAやMEXではローズウッドが使いにくい状況にあり、指板はパーフェローに置き換わっています。指板材の人気でいえばローズウッドに軍配が上がりますが、パーフェローも銘木であり、「ローズウッドとエボニーの中間くらい」という音響特性を持っていて、むしろローズウッドより高価な木材です。

MIJ × MEX 比較のまとめ

4万円以上という価格差もあって、「’60S(MEX)」の方が木材、ピックアップ、金属パーツといった点でグレードが高くなっているのが分かります。しかし、グレードに差があるからと言ってMIJが性能的に劣っているということにはなりません。フェンダー・ジャパン時代以来、日本製フェンダーは「メイドイン・ジャパン」の名に恥じないしっかりとした楽器作りを続けていますし、搭載されているパーツについても精度や強度といった性能は高く、細かいことを気にせずに長期間使用することができます。仕様書への記載はありませんが、ペグはフェンジャパ以来採用されているゴトー(GOTOH)社製が継続して使われていますから、安心して使用できます。そういう意味でMIJは、非常にコストパフォーマンスの高いシリーズだと言えるでしょう。

メイドイン・ジャパン・ジャズベースのラインナップ

ではここから、日本製フェンダー・ジャズベースのラインナップをチェックしていきましょう。4つのシリーズそれぞれについて見ていきます。