ムスタング、と言うと日本のロックファンの方であれば多くの方がチャーを思い浮かべるかもしれません。そのため、エレキギターというイメージがどうしても強いようです。しかし、チャーの愛機であるムスタングと同時に、同じ名を冠したベースが登場しています。ムスタングベースは、フェンダーが生み出したエレキベースの代表モデルであるプレシジョンベースやジャズベースとはまったく異なる特徴、そして魅力を持っています。そんなムスタング・ベースについてお話してみたいと思います。
フェンダー・ムスタングのエレキギターについて – エレキギター博士
どのような点がムスタング・ベースの特徴や魅力となっているのでしょう?
プレシジョンベースやジャズベースといったフェンダーベースの特徴について、1つには34インチのロングスケールを採用している、という点が挙げられます。スケールによって弦のテンションやチューニングの安定性は大きな影響を受けることになりますので、プレイアビリティやサウンドの大きな決め手となります。つまり、ロングスケールはフェンダーベースのアイデンティティの1つであると言えるでしょう。
しかし、1966年に発売されたムスタングベースはフェンダーベースの肝の1つであるロングスケールを採用しませんでした。ライバル社であるギブソンがEBシリーズなどで使用していたショートスケールが採用されたのです。どうしてフェンダーは成功を収めていたロングスケールをムスタングベースに採用しなかったのでしょう?
単にショートスケールのベースを作りたいだけであれば、すでに完成していたフェンダーベースのスケールを短くするだけで十分です。しかし、ムスタングは当時、すでに人気を確立していたプレシジョンベースやジャズベースとは異なるベースとしてデザインされています。ボディシェイプはもちろんのこと、一見するとプレシジョンベースと同じように見えるピックアップも新たに専用のものが設計されています。こういった点を見ても、開発者であるレオ・フェンダーは単にスケールの短いベースを作りたかったのではない、という点は明らかでしょう。
一般的にショートスケールのベースといえば、デメリットばかりが思い浮かんでしまいます。テンションが弱いことから、チューニングが不安定になってしまいやすいですし、芯のぼやけた音になってしまいがちです。だからこそ、フェンダーではベースⅥなどの特殊なモデルを除いたすべてのエレキベースに34インチのロングスケールを採用してきました。しかし、ショートスケールのベースでしか得ることのできない魅力があることもまた確かです。たとえば、スケールが短くなる分だけフレットの移動は楽になりますので、プレイアビリティは高くなります。さらに、同じ太さの弦を張っていても、テンションが弱くなりますので、より長いサスティンを得ることが可能となります。
先にお話したデメリットを解消することができれば、ショートスケールを採用することによってこれまでのエレキベースにはない魅力を持ったモデルを作ることができる…レオ・フェンダーはそう考えたのではないでしょうか。
Fender Pawn Shop Mustang Bass Demo
プレシジョンベースやジャズベースは、ロングスケールであることを前提に設計されていますので、そのままスケールを短くしたとしても魅力的なベースにすることはできないでしょう。だからこそ、新しくデザインすることが必要でした。ボディシェイプやピックアップ、ブリッジをショートスケールのベース専用に設計することによってムスタングベースは誕生しました。結果として、前述のショートスケールならではの問題点を大幅に改善しつつ、より魅力を活かすことのできるベースとなったのです。
ムスタングベースは、レオ・フェンダーがフェンダーを去る前に最後にデザインしたエレキベースと言われています。レオはフェンダーを退社後もミュージックマンやG&Lでいくつもの斬新なベースを生み出し、成功させてきました。ムスタングベースは偉大なアイデアマンであり、デザイナーであるレオがフェンダーに残した最後の遺産であると言えるでしょう。
60年代後半のフェンダー社の特徴でもあるカラーバリエーションの豊富さがムスタングにも見られ、アメリカ国内だけでなく世界各国で人気を博していきます。また、操作性の良さから日本では女性ベーシストに好まれる事が多いようです。
どのようなベーシストがムスタングベースを愛用しているのでしょうか?
長年にわたってローリング・ストーンズのボトムを支え続けてきたビル・ワイマンが60年代から70年代にかけてほぼメインベースとして使用し続けてきたのがムスタングベースです。太く広がりながらも抜けの良いサウンドは、まさにムスタングベースならではのものでしょう。
日本を代表する名プロデューサーでありベーシストの亀田誠治もムスタングベース愛用者の一人です。メインギターは60年代のジャズベースですが、自身もメンバーとして名を連ねていたバンド、東京事変でテレビ出演時や、PV、ライブなどでムスタングベースを頻繁に使用しています。
その個性的なルックスから、特殊なベースだと思われてしまいがちです。しかし、実際に使いこなしているベーシストのサウンドを聴いてみると、実はさまざまなジャンルの音楽にマッチする汎用性の高いベースであることがわかるはずです。
ムスタングベースは個性的なデザインでありながら、高いプレイアビリティと、素晴らしいサウンドを持ち合わせています。これもまた、フェンダーが生み出した素晴らしいエレキベースの一本であると言えるでしょう。
それでは、ムスタングベースのファミリーをご紹介しましょう。
現在、本家フェンダーにおける唯一のムスタングベースは、メキシコ工場製の廉価モデルとなっています。元々、ラインナップの中でもメインモデルとスチューデントモデルの中間に位置づけられていましたので、現在でもそれが守られていると言えるのかもしれません。廉価モデルとはいえプレシジョンベースとジャズベースのピックアップのパワーを加えた「PJタイプのベース」となっており、バラエティ豊かなサウンドが楽しめます。USA工場と同様の品質管理の下で製造されていますので、非常にハイクオリティなモデルとなっています。
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日本では特に高い人気を誇っているムスタングですので、フェンダージャパンのレギュラーモデルとしてもラインナップされています。
非常に品質が高く、価格も低く抑えられていることから、国内ではもちろん、海外でも高い評価を集めています。
本家フェンダーの姉妹ブランドであり、廉価モデルを中心にラインナップしているスクワイヤーからもムスタングベースはラインナップされています。基本的なスペックはフェンダージャパンのモデルと同様ですが、アジア工場によって生産することによって高いコストパフォーマンスを実現しています。
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