シド・ヴィシャス

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【本名】ジョン・サイモン・リッチー
【生年月日】1957年5月10日
【出身地】イングランド ロンドン
【使用ベース】 : Fender Precision Bass
【所属バンド】 : Sex Pistols

永遠のパンク・アイコン

ベーシストなら、いや、音楽ファンであるならばその名前くらいは知っているであろうシド・ヴィシャス。
ザ・セックス・ピストルズのベーシストであり、その破天荒な生き様は、パンクを体現する存在として多くのミュージシャン、リスナーたちに影響を与えていった。ステージでもプライベートでも、パンク・アイコンとしての使命を知らず知らずのうちに全うしてしまったシドは、薬物の過剰摂取により21年の短い人生に幕を降ろした。そしてシドはパンクの伝説となったのである。

シドの生い立ちや、恋人であるナンシー・スパンゲンとの関係については、様々なところで紹介されているのでそちらを参考にしていただくとして、このではベーシスト的な観点から見た「シド・ヴィシャス」を掘り下げて考察していきたいと思う。

正式音源1曲で記憶に残り続けるベーシスト

意外と誤解している人が多いかもしれないが、ザ・セックス・ピストルズが唯一残したオリジナル・アルバムである「勝手にしやがれ」でシドがベースを弾いているのは「ボディーズ」の1曲のみである。「アナーキー・イン・ザ・UK」はレコーディング直前に脱退したオリジナル・ベーシストのグレン・マトロックが担当。それ以外はギタリストであるスティーヴ・ジョーンズがベースを弾いている。ピストルズに参加したばかりのシドは、ベースに関しては初心者であり、とてもレコーディング出来る状態ではなかったようだ。


The Sex Pistols – Bodies – 1/14/1978 – Winterland

ヴォーカルのジョニー・ロットンと親交があったことからメンバーに抜擢されたシドだが、ピストルズ以前はスージー・アンド・ザ・バンジーズでドラマーとして活躍していた。だが、ベースに関しては素人で、ピストルズ加入後にベース・プレイを覚えていったようだ。
ピストルズ=シドというイメージを持っている人も多いだろうし、ピストルズ=「勝手にしやがれ」なのだから、全編シドによる録音だと思っている方々も多いことだろう。でも実際は曲の大半をグレンが作曲していることを考えると、もっと日本でのグレン・マトロックの評価は高くてもいいと思う。頑張れグレン。負けるな。

また、シドはソロでレコーディングを行っている。それが後に「ザ・グレイト・ロックンロール・スィンドル」に編集されて収録されることになる「マイ・ウェイ」である。シドはピストルズ解散後にソロでライヴも行っており、現在でもその音源は「マイ・ウェイ」の他2曲のシングルとともに「シド・シングス」として楽しむことが出来る…のだが、残念ながらシドはヴォーカルのみでベースはプレイしていない。

オリジナル作品でのベース音源が「勝手にしやがれ」収録の「ボディーズ」のみ。まじか…。
それなのに後年のベーシスト(とミュージシャン、ロック・ファン)への影響の強さは計り知れない。

シド・ヴィシャスが愛したラモーンズ

シドがピストルズ加入時、ベースをまともに弾けなかったのは前述のとおり。そんなシドはラモーンズのデビュー・アルバム「ラモーンズの激情」をコピーしてベース・プレイをマスターしたという。もともとドラムをプレイしていたシドだからリズム楽器であるベースの演奏を身につけるのは難しいことではなかったのかも。もし薬物の影響がなければ、もっともっとシドのプレイは上達していたのかもしれない。

ただ、知名度が上がるに連れ取り巻きからよりヘビーなドラッグが提供され、恋人であるナンシー・スパンゲンの影響もあり、シドの興味はドラッグにばかり向いてしまいベーシストとしての進化は止まってしまった。とても残念だが、だからこそシドは後年に語り継がれるアイコンになりえたのかもしれない。とても皮肉なことである。

ちなみにシドが教科書として選んだ「ラモーンズの激情」。「8ビートでイマイチノリが出せない、疾走感が出ない」と悩んでいるベーシストにオススメしたい1枚。
1曲1曲はシンプルで短いし、コピーもしやすい、8ビートのノリを掴むにはうってつけの名盤。というよりベース云々語る前に、ロックを好きと言うならば絶対に聴いておくべき「一家に1枚・子供たちに受け継ぎたい名作」的なアルバム。

おっとだいぶ話が逸れた…失敬。ただ、シドに興味を持ってこのページを読んでくれているあなたはきっとシドのベース音源の少なさにちょっと寂しさを感じるでしょう(笑)そんな時はディー・ディー・ラモーン兄さんのザ・パンクなベース・プレイで心の穴を埋めてください。

ジョニー・ラモーン – エレキギター博士

天才パフォーマーの最期

ベーシストとしてのシドは音源こそ少ないものの、ステージでは圧倒的な存在感でヴォーカリストのジョニー・ロットンとの人気を2分するほどだった。薬物のせいでまともに弾けないこともしょっちゅうだったし、ステージで観客と喧嘩することも多々あった。それでもそんな存在そのものがパンクであるシドのファンは増える一方だった。

そんな中、恋人であるナンシーが死亡。
シドも薬でヘロヘロになっていて記憶がなかったりとか、凶器のナイフにシドの指紋が付いていたとか、怪しさ満載で殺人容疑をかけられるも、決定的な証拠はなく、レコード会社が多額の保釈金を払うことで自由の身に。しかしながらここまでハードな人生を送ってきたシド、破滅的な傾向が治まることはなく、1972年2月2日、ついに薬物の過剰接種により他界。
享年21歳。

ヘビーで濃密な人生に終止符を打ち、永遠の伝説となった。


The Sex Pistols – Anarchy In The UK – 1/14/1978 – Winterland

ベースプレイと後世への影響

影響を受けたミュージシャンは多く存在し、モトリークルー、メガデス、モーターヘッド、ベルベッド・リボルバー等の有名バンドにも楽曲をコピーされている。シドが与えた影響は音楽的な影響もあるのだが、パンクロックの精神的な部分と、ファッション等のイメージに関わる部分が大きい。
アナーキーイズム、反社会的な振る舞い、破滅的な思想等は多くのバンドに引き継がれ、セックス・ピストルズが解散し、パンクシーンが下降しても、多くのキッズが影響を受けた。ファッション面では、影響を受けたキッズ達が鋲付きのベルトやレザーライダースジャケットを身に付けて、それぞれの音楽をそれぞれのスタイルで行った結果、ネオパンクやハードコア、スラッシュメタル等の様々な音楽シーンが生まれた。

楽曲やファッションからは分かりにくいが、ニルヴァーナのカート・コバーンもシド・ヴィシャスから影響を受けており、思春期にピストルズを聞いていたようである。ニルヴァーナの破壊的なサウンド、歌詞、破滅的な行動(カートも薬物中毒でショットガンで自殺した)はシド・ヴィシャスからの影響もあるのかも知れない。

使用機材

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シドの愛用ベースはフェンダー・プレシジョン・ベース。白いボディに黒のピックカードのモデルが有名だが、シドがプレジションを選んだ理由はラモーンズのディー・ディー・ラモーンが使用していたかららしい。プレイもラモーンズ直系の8ビートを刻むロックンロール・スタイルで、シドにとってラモーンズがいかに大きな存在であったかが分かる。

プレイヤーとして何かをとりあげるには余りにも音源としての資料が少なすぎるシドではあるが、現存するPVやライヴ映像を観ると、やはり明らかに他のベーシストにはない華がある。ただそこにいるだけでバンドの価値を高められるプレイヤーはなかなかいるものではない。そう思うとやはりシドは天賦の才を持ったベーシストだったと言えるだろう。

ディスコグラフィー

「Never Mind the Bollocks」(邦題:勝手にしやがれ!!)

Never Mind the Bollocks

シドのプレイした名盤…と言って良いのかどうか…。でも死後に発売されたソロ・アルバム「シド・シングス」でのシドはヴォーカリストだしやはり「ボディーズ」1曲のみのプレイだとしてもこれを選ぶしかないようだ。「勝手にしやがれ!!」、実際にロックを聴いていくうえでは避けて通れない名盤だし、好きとか嫌いとかとは別次元で一度は耳にしておくべきパンクの傑作である。
70年代パンクの名曲が詰まったこのアルバム、ここで語るべきはやはり「ボディーズ」。愛すべきロクデナシ、存在そのものがパンクであり、ベーシストとしてプレイが秀でていたわけでもないシドが、ソングライティングの才能を見せつけた名曲。あとはもうシドが弾いてようが、グレン・マトロックが弾いてようが、スティーヴ・ジョーンズが弾いてようが、疾走感満載、イヤなことも全部忘れてアッパーになれるキラー・チューンだらけの作品に身を委ねるべし。

Sid Sings

Sid Sings

シドの没後に発売された唯一のソロアルバム。内容は、シドが敬愛していたジョニーサンダース&ハートブレイカーズやパンク界のゴッドファーザー、イギーポップのカヴァー曲が多く、CMに使われていた「My Way」も収録されている。

シドはベースを弾かず,ヴォーカルのみを担当。音質はあまり良くないが、当時の雰囲気を感じる事が出来る重要なアルバムとなっており、シドが好きな人には押さえて欲しい1枚。

Too Fast to Live

Too Fast to Live

1979年にシド・ヴィシャスが亡くなってから、25年目の2004年に発売されたベスト・アルバム。2曲目の「C’Mon Everybody」が最高にかっこ良い。

シド・ビシャスを…