日本の楽器メーカー「ローランド(Roland)」の一部門「BOSS(ボス)」は、コンパクト・エフェクターというものを世界で初めて発表したメーカーです。開発力にすぐれ、ベースに特化したエフェクターの開発にも積極的です。製品に共通するシンプルさと頑丈さは初心者に優しく、目的の音を作りやすいアクセスの良さと高いサウンドクオリティはプロレベルのプレイヤーにも支持され、今なおエフェクターの世界的なスタンダードであり続けています。今回はそんなBOSSのエフェクターを、
という分類で概観してみましょう。
アナログにおいてもデジタルにおいてもBOSSの開発力はすさまじく、ベース用アナログ機「LMB-3」「CEB-3」「GEB-7」はいずれも1995年リリースで、発表から四半世紀を迎えようという現代において、いまだにプロの使用に耐える「現役」です。「初心者からプロまで使用する電気製品が、四半世紀モデルチェンジなしで現役」、この事実がBOSSのすごさを物語っています。
「アナログでできることはすべてやり尽くした」ことから、蓄積したノウハウは「技WAZA CRAFT」で生かされるものの、今のところ今後の新製品はすべてデジタルで開発されます。デジタル技術は、アナログの再現を目指したこれまでの「COSM」に加え、むしろデジタルにしかできないことをやってしまおうという技術「MDP(Multi Dimensional Processing)」を推し進め、少ないツマミを感覚的に回すだけで内部でうまいこと処理してくれるような、アナログの常識を打破した新次元のエフェクターが作られています。なお、MDPを使用しているエフェクターでは、製品名やエフェクト名に「X」が挿入されます。
コンパクト・エフェクターは、一個だけから使えるハードルの低さと、たくさん並べて好きなように組み合わせられる自由度の高さがメリットです。反面、それぞれについて電源を確保する必要がある、それぞれを接続するパッチケーブルが必要、たくさんのエフェクターを一度にON/OFFするのは困難、というところが注意点です。BOSSのコンパクト・エフェクターは頑丈な本体にシンプルな操作、電子スイッチによるノイズのないON/OFFといったところが共通した特徴で、ツマミは「12時」の位置が標準的な設定です。
ベース・コンプレッサー「BC-1X」は、BOSSが遂にリリースした「ノイズのないマルチバンド・コンプレッサー」です。4つのつまみと光るインジケーターによる感覚的な操作で、低音から高音までバランスよく聞こえるスタジオクオリティのコンプレッションが得られます。あくまでも原音を重視した設計でありながらしっかりとした音作りも可能で、隠し味のような薄く自然なかかり具合から窒息しそうな超圧縮まで、自由な設定が可能です。使用する電池や電源は9Vですが内部で18Vに持ち上げており、そのぶんヘッドルームが拡大されて歪みにくく、しかもMDPによりノイズがほとんど出ないという非現実味が味わえます。
Review Demo – Boss BC-1X Bass Compressor
BOSS BC-1X – Supernice!エフェクター
その名の通りの「LMB-3」は、音量を含む4つのツマミのシンプル操作で
といういわゆる「補正系」の二つを使用できる、おトクなエフェクターです。RATIOやENHANCEを左に目一杯回せばその効果をゼロにできるため、どちらか片方のみの使用も可能です。リミッターは音量の上限をバッサリ切ることも緩やかに削ることもでき、調整次第でコンプレッサーのように使えます。エンハンサーは倍音成分を加えることにより、鋭いアタックをしっかり前に押し出すことができます。
Boss LMB-3 Bass Limiter Enhancer | Reverb Demo Video/span>
BOSS LMB-3 Bass Limiter Enhancer – Supernice!エフェクター
「ODB-3」は、ベース用ドライブペダルの代表格と呼んでも過言ではない定番機です。原音とドライブ音をブレンドできる「BALANCE」ツマミがギター用ドライブペダルとの大きな違いです。「GAIN」を上げてディストーションと呼べるほどのギッシャギシャに歪ませても、原音を混ぜることで音の芯を維持させ、「ボトムとリズムを支える」というベース本来の役割を果たすことができます。また「EQ」は一本のツマミで高域と低域を操作できるため、カリッカリの鋭い音からズモズモの太い音まで作ることができます。
Boss ODB-3 Bass Overdrive | Reverb Demo Video/span>
BOSS ODB-3 Bass OverDrive – Supernice!エフェクター
「BB-1X」は、PAやレコーダーに直接つなぐことのできる、プリアンプのようなドライブペダルです。「LOW」と「HIGH」のEQ、しっかり歪む「DRIVE」、ドライブ音に原音を混ぜる「BLEND」という操作は、ツマミの名称こそ違いますがODB-3と同様です。バリバリ感のあるサウンドはODB-3とまた異なる印象で、存在感があり、かつアンサンブルによく馴染みます。
出力端子が「OUTPUT」と「LINE OUT」に分かれているところが大きな特徴で、「OUTPUT」はベースアンプに、「LINE OUT」はPAやレコーダーに、それぞれの機器に対して適切に調整されたサウンドを送ります。
Psycho – Muse (Bass Cover) Using the BOSS BB-1X/span>
BOSS BB-1X – Supernice!エフェクター
「GEB-7」は、ベースの音作りで操作したい周波数帯を7つ狙った、完全にベースに特化したグラフィックイコライザー(グライコ)です。重低音は50Hzと120Hz、高域は4.5kHzと10kHz、という二つに対し、ベーシストがこだわりたい中域を400Hz/500Hz/800Hzと細かく3つ用意しているところが、ベースに特化している大きなポイントです。また、超高域を操作する10kHzのみ「シェルピングイコライザー」となっており、10kHz以上の周波数帯を全てブースト/カットできます。可変域が±15dBと広いため、サウンドの補正に使えるだけでなく、ココ一番の飛び道具としても使用できます。
Boss GEB-7 Bass Equalizer Demo/span>
BOSS GEB-7 Bass Equalizer – Supernice!エフェクター
「CEB-3」は、スッキリとした美しいサウンドからグッチャグチャなサウンドまでカバーできる、シンプルかつ高性能なコーラスペダルです。コーラス自体は「RATE(早さ)」と「DEPTH(深さ)」で作りますが、残りの二つのツマミで芯のある原音を活かします。「E.LEVEL」ではエフェクト音のミックス量を調整、「LOW FILTER」ツマミではエフェクト音の低域をカットし、「低域は原音、高域にコーラス」という使い方ができます。ステレオ出力もあり、「ベースに欲しい機能がすべて備わっているコーラスペダル」だと評されています。
Boss CEB-3 Bass Chorus Demo/span>
Boss CEB-3 Bass Chorus – Supernice!エフェクター
「SYB-5」は、まさにベーシストにとって最強の飛び道具となるであろう強烈な個性を持ったペダルです。選べる11種類のシンセサウンドに、「FREQ」「RES」「DECAY/RATE」の3つでシンセ音を作ります。音程感を失いそうな強烈なサウンドですが、シンセ音に原音をブレンドさせることでベーシストとしての職務を忘れずに果たすこともできます。フットスイッチ長押しで起動する「ホールド」機能に加え、エクスプレッションペダルを増設することもできる、BOSSのベース用コンパクト・エフェクターの中で最もディープな存在です。
Boss SYB-5 Bass Synthesizer | Reverb Demo Video/span>
BOSS SYB-5 Bass Synthesizer – Supernice!エフェクター
こちらはベース専用というわけではありませんが、ベーシストが活用できるエフェクターです。エフェクトループを増設したり他のデバイスに電力供給したりすることができるものは、エフェクトボードの合理化にも有用です。足元を充実させるにつれ、できることが広がります。
「同じ歪みやコーラスでも、何種類か使い分けたい」「もっと細かく音作りがしたい」そんな中級以上のベーシストにお勧めなのが、音質と機能性を極限まで高めた「500シリーズ」と「200シリーズ」です。500シリーズは大きなディスプレイで作業しやすく、最大297音色を記憶できます。200シリーズはディスプレイこそ小さく記憶も4種類までですが、サンプリング周波数96kHz、AD/DA変換32ビット、内部演算32ビットといった高い性能や豊富なサウンドバリエーションは500シリーズと同じです。両シリーズともエフェクトループを備えており、エフェクターのつなぎ方について極限までこだわり抜くことができます。
BOSS DD-500 Delay, MD-500 Modulation, RV-500 Reverb Combination
ES-5
ここまでコンパクト・エフェクターをチェックしていきました。コンパクト・エフェクターはそれぞれに機能と夢が詰まった宝箱のような存在ですが、「いくつものデバイスを同時にON/OFFできない」のが泣き所です。これを巧く解消させるデバイスが「プログラマブル・スイッチャー」です。しっかり設定してしまえば、スイッチを一個押すだけでいくつものエフェクターのON/OFFを切り替えることができます。BOSSからは3モデルがリリースされており、各モデル名の数字は、それぞれが装備しているエフェクトループの数を表しています。
BOSS ES-8 – Supernice!エフェクター
BOSS ES-5 – Supernice!エフェクター
BOSS MS-3 – Supernice!エフェクター
コンパクト・エフェクターは、1台で1つの効果が得られるデバイスでした。これに対し、一台の中にたくさんのエフェクターを内蔵し、いくつもの効果を同時に操作できるのが「マルチエフェクター」です。単価は少々高めに思えますが、コンパクト・エフェクターをいくつも買うことを思えば安上がりです。
BOSSのマルチはプリアンプを備えているため、PAやレコーダーに直接差し込んで使うこともできます。AUXとヘッド本の端子を備えているので、自宅練習に便利です。またたいがいのエフェクターが最初から内蔵されているので、例えば「ごくたまにしか使わないようなエフェクターをわざわざ買うかどうか、ノイズや重量のリスクを背負ってまでわざわざエフェクターボードに組み込むべきか」など悩まなくて済みます。また、フットスイッチを増設することもできる拡張性があります。
現在のBOSSからは、スッキリとしたデザインの最新式「GT-1B」、多くのツマミがスタンバっているロングラン製品「ME-50B」がリリースされています。また、はじめギター用としてリリースされた最強マルチ「GT-1000」が、アップデートによってベース用最強マルチとして利用可能です。
「GT-1B」は、3つのツマミを軸にしたシンプルな操作でサウンドメイキングができる、最新式のマルチエフェクターです。3つのツマミは各エフェクトを示すボタンを押すことで、そのエフェクターをコントロールするツマミになります。「▲」と「▼」のフットスイッチで順番に音色を切り替える方式ですが、BOSSマルチのお家芸「CTL」スイッチが備わっているので、一つの音色に二つのキャラクターを持たせることができます。現代のライブパフォーマンスではぜひとも使いこなしたい「ルーパー」が備わっているのもうれしいところです。
「EASY」モードでカンタンにサウンドメイキングができるほか、USBケーブルを介してPCと接続すれば、プロミュージシャンの設定した音色を手に入れることもできます。
BOSS GT-1B Bass Effects Processor
BOSS GT-1B – Supernice!エフェクター
「ME-50B」は、デジタル機器でありながら、何と2003年から生産が続いているロングラン製品です。各エフェクトの選択や効き加減の調節、プリアンプでの音作りなど、操作するもののすべてにツマミが用意してあり、思いついたパラメーターに即座にアクセスできます。上記GT-1Bではエフェクターを示すボタンをいちど押してから3つのツマミを操作しますが、このME-50Bではその「ボタンを押す」動作を必要とせずいきなり操作でき、またずらりと並んだツマミの設定を見れば、音色の全体像を把握することができるわけです。
作った音色を3つ並べて使用できるほか、各フットスイッチにひとつづつエフェクトを割り当てた、コンパクト・エフェクターのような使い方もできます。
All About the Bass – BOSS ME50B – Put Your Foot On It
Boss ME50B – Supernice!エフェクター
はじめギター用に開発された最強マルチエフェクター「GT-1000」ですが、バージョン3へのアップデートの際、ベース用の3つのアンプモデル、16のエフェクターが追加され、「ベース用最強マルチ」として使えるようになりました。
GT-1000は、
という強力な機能を持っています。本体のシステムもエディット用のアプリも順次更新されますから、常に最新の状態で使用できます。
ベース用アンプモデルは以下の3つで、もちろん使用しないという選択もできます。
NATURAL BASS | ベース用の素直なクリーン・サウンド。 |
X-DRIVE BASS | 広いレンジと心地よい分離感のハイゲイン。 |
CONCERT | アンペグ「SVT」シリーズのモデリング。 |
表:GT-1000に搭載される、ベース用アンプモデル
ベース用エフェクターは以下の16種類です。これだけあれば、ベースでやりたいことはたいがいどうにかなります。これに加え、グライコやパライコ、ギター用ディストーション、ディレイやリヴァーブといった残響系、スライサーやリングモジュレーターやシタールのシミュレーションなどエグい飛び道具といった、無数のエフェクターを選択できます。
BOSS GT-1000 Version 3 for Bass with Janek Gwizdala
BOSSのギタープロセッサー「GT-1000」徹底レビュー! – エレキギター博士
以上、BOSSのベース用エフェクターをざっと見てきました。エフェクターに頼らないスタイルのベーシストも多いことから、今回見てきたものでほぼ十分と考えられはするものの、ベース用のエフェクターはギター用ほど多くはない印象です。では、ベース用エフェクターに飽き足らず、ギター用のエフェクターをベースで使用できるのかといえば、もちろん使用できますし、ちゃんと音が出ます。しかし、ギター用のものはベースの低音域をカバーするように作られているとは限らず、想像通りの効果が得られるとは限りません。ぜひ、ショップで実際にその効果を確かめてみてください。
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