レス・クレイプール

PRIMUS Woodstock 1994 PRIMUS「Woodstock 1994」より:中央がレス・クレイプール氏

レス・クレイプール(Les Claypool)はアメリカ・カリフォルニア州リッチモンド出身のベーシストです。トリオ編成のオルタナティブロックバンド「Primus(プライマス)」のリーダーで、ベースの他にボーカルも担当します。スラップやタッピング・コード弾きなどを駆使した高度なテクニック、奇抜な音使いやステージパフォーマンスから「変態」と呼ばれることもあるベーシストです。

【使用機材】Carl Thompson Walnut fretted 4-strings、 Carl Thompson Multi-wood Frettless 6-strings Rainbow Bass
【所属バンド】Primus、Oysterhead、The Claypool Lennon Delirium

biography

1963年9月29日アメリカ・カリフォルニア州リッチモンドに生まれます。14~15歳の頃ベースを弾き始めます。当時はギターとベースの違いもあまり分かっていなかったようです。ハイスクール時代はジャズのビッグバンドでウッドベースの演奏もしていました。が、譜面はほとんど読めず、見よう見まねで演奏していました。

Primus

1984年プライマスを結成します。リーダーのクレイプール以外のメンバーは何度か交代を繰り返しますが、インディズデビューアルバム「Suck On This」をリリースする1989年頃には、ギターのラリー・ラロンデ、ドラムのティム・アレキサンダーという現在と同じメンバーが揃います。
1991年、ワーナーミュージックの傘下レーベルからアルバム「sailing the Seas of Cheese」をリリースしメジャーデビューを果たします。この後ドラマーの交代などありながらもバンドは活動を続けますが、2000年バンドは一旦解散することとなります。
2003年、デビュー当時と同じメンバーで再結成を果たします。その後ドラムがインディーズデビュー以前のメンバーであったジェイ・レインに変わった期間もありましたが、2013年にはティム・アレキサンダーがバンドに再復帰し現在に至ります。

その他

1986年にはメタリカのベーシスト、クリフ・バートンの事故死により同バンドから誘いを受けますが断ります。じつはこれ以前のハイスクール時代にも、当時の同級生であり後にメタリカのギタリストとなるカーク・ハメット氏からボーカリストとしてバンドに誘われており、このときもクレイプールは断っています。
2000年、Primusが一時解散をしていた頃、「ポリス」のドラマー、スチュワート・コープランドらとジャムバンド「Oysterhead」を結成。2001年アルバム「The Grand Pecking Order」をリリースします。
2016年、ジョン・レノンの次男であるショーン・レノンとユニット「The Claypool Lennon Delirium」を結成し、アルバム「Monolith Phobos」をリリースします。
この他ソロ名義の作品や、ユニットでのリリースが多数あります。


Oysterhead live at Bonnaroo 2006
「Oysterhead」のライブ映像です。このバンドは2000年から2001年までの活動となっていましたが、2006年に一度リユニオンライブを行っており、この動画はそのときの模様です。

プレイスタイル

前述のように「変態」と呼ばれることも多いクレイプールですが、奏法自体は比較的オーソドックスなスタイルといえるでしょう。とくに多くの楽曲で聴かれ、彼のトレードマークともなっているスラップ奏法のフォームは力の抜けたお手本のようなものといえます。また他のプレイヤーはあまりやらないフレットレスでのスラップ奏法を多用するのも大きな特徴です。ちなみに、いわゆるミクスチャー系のバンドのベーシストは、レッチリのフリーに代表されるように親指が下に向いたフォームのスラップ奏法をすることが多いですが、彼のフォームは親指が横に向くスタイルとなっています。


Primas-”Tommy The Cat”- Bonnaroo2011(Official Video)|Bonaroo365
プライマスの代表曲ひとつ、「Tommy The Cat」のライブ動画です。スラップ奏法のリラックスしたフォームを見ることができます。2:45あたりのスラップにコード弾きを織り交ぜるフレーズも、右手の動きにまったく無駄がありませんね。

クレイプールはプライマスと同じギタートリオ編成のバンドである「ラッシュ」のゲディー・リーからの影響を公言しています。が、ゲディーのような自由に弾きまくるリードベーススタイルとクレイプールのスタイルは趣がことなり、いわゆる「リフ」と呼ばれる短いフレーズを繰り返し演奏することが多いのが特徴です。このリフは、前述のスラップの他タッピングやコード弾きなどのテクニックを駆使して構築しており、難易度の高くかつ独特な音使いの印象的なフレーズが多く存在します。


Primus – Jerry Was A Race Car driver
「Jerry Was A Race Car driver」はファーストアルバム「sailing the Seas of Cheese」に収録された楽曲です。冒頭から聴かれるフレーズは右手のタッピングと左手のゴーストノートを組み合わせて演奏されています。フレットレスの楽器が使われていることによる独特のスライド音も特徴的で、シンセサイザーのシーケンスフレーズのようにも聴こえます。

そしてクレイプールの一番の特徴は、高度なテクニックを駆使した難易度の高いフレーズを弾きながら、同時にボーカルまでをこなしてしまうことにあります。さらにライブでは独特のアクションでのステージパフォーマンスまでも見られ、このマルチぶりが「変態」と形容される一番の理由なのではないでしょうか。アップライトベースを演奏する場面もあり、アルコ(弓による演奏)も取り入れています。これもロック系のベーシストとしては非常に珍しいスタイルです。


Primus – “Jilly’s On Smack” – Bonnaroo2011(Official Video)|Bonaroo365
全編アップライトベースでの演奏となっています。ディレイなどのエフェクターとアルコによる音色を組み合わせて、独特の世界観を作り上げています。

使用機材

クレイプールは主に「カール・トンプソン」というメーカーのベースを愛用しています。このメーカーは、”エレクトリックベース界のストラディバリ”と呼ばれることもある伝説的な楽器製作者カールトンプソンによって立ち上げられた、40年以上の歴史のあるニューヨークの老舗ハンドメイド・ベースメーカーです。オールハンドメイドで年に10数本しか製作できないといわれています。

そしてクレイプールが使用するカール・トンプソンのベースの中でも特に有名なのが、通称「レインボーベース」といわれる、6弦フレットレス仕様のベースでしょう。この楽器の一番の特徴は、まるで寄木細工のような美しい見た目にあります。これらはすべて、ペイントではなく様々な木を複雑に組み合わせて作られています。まさに寄木細工と同じ手法ですね。ちなみにボディー材にはウォルナット・メイプル等、ネックにはマホガニー等、指板にはエボニー等が用いられています。またブリッジ・ナットも木材により作られています。

ボディシェイプも独特で、この形状はネック長がエクストラロングスケール(36インチ)ながら、それを感じさせないバランスのよさにも効果を及ぼしています。ピックアップは1つのみで、この1ピックアップということがクレープールが楽器をオーダーする際に出した唯一の要望だったそうです。製作当初は別のピックアップが搭載されていましたが、現在はEMG製のものに付け替えられています。コントロールツマミは4つ付いていますが、1つはダミー(2ピックアップにした際のピックアップバランサーを想定しているのでしょう)で、残りはマスターボリューム、ベース、トレブルとなっています。ちなみにこのレインボーベースは世界初の6弦フレットレスベースであるともいわれています。

クレイプールはこの他にも、メインベースとして使用されているウォルナットボディでトレモロアームの付いた4弦フレッテッド、フレットレスのピッコロベース(通常より1オクターブ高くチューニングされたベース)など、カール・トンプソンのベースを多数所有しています。


Primus – “Electric Grapevine” – Bonnaroo2011(Official Video)
「レインボーベース」によるソロベースから始まる楽曲です。全編に渡ってフレットレスならではのスライドが多用されており、レインボーベースのサウンドを堪能できます。工芸品のような美しい見た目にも注目してみてください。