ホアン・アルデレッテ

【生年月日】1963年9月5日
【出身地】アメリカ カルフォリニア
【使用ベース】 : Fender Precision Bass、Fender Jazz Bass、Lakeland
【所属バンド】 : マーズ・ヴォルタ、ビッグ・サー、ヴァットウ・ニグロ、レーサーX

ポール・ギルバード(Gu)のバンドとして知られる超絶テクが売りのハード・ロック・バンド「レーサーX」、元モトリー・クルーのジョン・コラビ(Vo)とのバンド「スクリーム」、オマー・ロドリゲス(Gu)とセドリック・ビクスラー(Vo)を中心とした新世代のプログレッシヴ・ロックを聴かせる「マーズ・ヴォルタ」、M83のリサ・パピヌー(vo)の浮遊感溢れるヴォーカルを活かした「ビッグ・サー」、そしてベースとドラムだけでブッとんだ世界を繰り出す「ヴァットウ・ニグロ」など、それぞれ全く違った音楽性のバンドでありながら、自身の持つ音楽的アウトプットの多さと、それらを確実に弾きこなすスキルの高さを持ち合わせた希有なベーシスト、それがホアン・アルデレッテである。
参加作品は多岐に渡るが、ここではマーズ・ヴォルタ、ビッグ・サー、ヴァットウ・ニグロに絞って紹介していくこととする。

マーズ・ヴォルタ加入~アンピテクチャー

レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーをベーシストに迎えて制作された傑作「ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム」でアルバム・デビューを果たしたマーズ・ヴォルタがツアーに起用したのがホアン。
オマーとセドリック以外のメンバーは固定されず、アルバムやライヴ毎に変わるバンド編成の中で解散までベーシストとしてのポジションを守り続け、オマーとセドリックに次ぐ古参メンバーとしてマーズ・ヴォルタに欠かせない存在となっていく。
ホアンがマーズ・ヴォルタで初の録音を行った作品は2ndアルバム「フランシス・ザ・ミュート」。壮大なコンセプト・アルバムで長尺な組曲となっている。
このアルバムでホアンは抜群の安定感を誇るプレイで曲のボトムを支えている。

マーズ・ヴォルタの作品では、オマーの細かい指示でプレイすることが多いためか、ラインそのものもオマーの案によるところが多いそうだが、アイデアとインスピレーションの塊であるオマーの頭の中に描かれた曲を限られた時間の中で理解し、具現化できるレスポンスの速さと正確さが、ホアンをマーズ・ヴォルタのベーシストとして不動の地位に留めた大きな要因であろう。ちなみにマーズ・ヴォルタではベースのレコーディングに充てられる時間はかなり短いらしい。それであの完成度の高い演奏を聴かせるのだから驚異的だ。

3rdアルバム「アンピュテクチャー」

続く3rdアルバム「アンピュテクチャー」ではジョン・フルシアンテが全面的に参加。オマーとジョンのギターの裏で堅実かつアグシッシヴなベース・プレイを展開。ジョン・セオドア(Dr)の鬼神の如きドラミングと対等に渡り合うホアンのスキルもさることながら、様々な楽器の音の配置を頭の中で創り上げ、各パートに指示を出し、濃密な楽曲として構築していくオマーの手腕には感嘆せざるを得ない。
前作である「フランシス・ザ・ミュート」で、既に00年代ロックの常識を打ち破ったマーズ・ヴォルタが新たな一歩を踏み出したという点でも非常に重要な作品である。ちなみにこのアルバムを最後にジョン・セオドアがバンドを離れた。

ゴリアテの混乱~マーズ・ヴォルタ解散

様々の音楽ジャンルを内包しつつ、唯一無二の存在としてロックの可能性を切り開き続けるマーズ・ヴォルタが満を持して発表した4thアルバム「ゴリアテの混乱」。
シングル・カットされた「ワックス・シムラクラ」がグラミーの最優秀ハード・ロック・パフォーマンスを受賞するなど、名実ともに世界クラスのロック・バンドになったものの、アルバムにおける楽曲の濃密さは更に深みを増していく。冒頭の「アバリンクラ」のブリッジにおける各パートのサウンドが緻密に重なり合いながら火花を散らす様は、まるで全盛期のキング・クリムゾンのようですらある。
もちろんホアンのベースの緩急付けたベース・ラインで時にソリッドに、時にグルーヴィに楽曲を支えている。

しかしながらこのバンドの面白いところは、凄まじいセッションと思える楽曲であっても、実際には各ペートのメンバーが曲を録音している時点では、自分のプレイがどのように楽曲に活かされ、どのような楽曲に仕上がるか全く知らないケースが多いということである。
録音後、楽曲を完成させるのはオマーで、あくまでオマーの頭の中にある完成図の音を部分的に演奏することを強いられざるを得ないわけだが、そんな状況の中でここまでのプレイが出来るホアンを始めとしたメンバーたちのスキルの高さは超人的である。

5thアルバム「八面体」

5thアルバム「八面体」は今までのアルバムに比べ長尺な曲の数は減り、若干コンパクトな印象を残している。(それでも7分以上の曲が4曲あるが)
ベース的には「コトパクシ」における変拍子リフを聴き所に挙げておきたい。そしてコーラスにおけるトーマス・プリジェン(Dr)の凄まじいドラミングに絡み付くようにうねるホアンのベースは鬼気迫るものがある。
「コペルニクス」のような美しいバラードで聴かせるシンプルでいて低音を効かせたアプローチも見事である。

ラストアルバム「ノクターニキット」

残念ながらマーズ・ヴォルタとしては最後のアルバムとなってしまった「ノクターニキット」では楽曲は更にコンパクトとなり、聴きやすさでいったら「ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム」に次ぐアルバムと言えるのではないだろうか。楽曲がコンパクトになったことでセドリックの歌がより存在感を増し、ツェッペリンのようなハード・ロック・ナンバーや後期のマーズ・ヴォルタが得意とした美しく濃密なバラードがバランスよく配置され、今後の新たな展開を予感させる素晴らしいアルバムであったが、マーズ・ヴォルタだけでは自身の溢れるアイデアを消化しきれないオマーの課外活動の多さに業を煮やしたセドリックが脱退。
バンドは実質上解散となる。

ホアンはその後セドリックが結成したZAVALAZに参加、音源は未発表ながらセドリックの紡ぐメロディが素晴らしいので是非youtubeをチェックしていただきたい。
ちなみにオマーとセドリックはその後仲直りしたようで、アンテマスクという新バンドを結成。しかもサポート・ベーシストはマーズ・ヴォルタの1st「ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム」同様レッチリのフリーという、ベーシストなら見逃せないバンドとなっている。

B006WQJJZ8

オマー・ロドリゲス

オマーはとても多作なミュージシャンであり、ソロ・アルバムの作品数も凄まじい量になっているが、ホアンはそれらの多くの作品でもベースを弾いている。
ソロでのオマーはマーズ・ヴォルタと違い、作品毎に作風はガラリと変わり、自身がヴォーカルをとることもあれば、サウンドトラックのようなインスト作品もある。音をコラージュしたような作品があったりもする。

その中でもホアンの活躍を推すならば07年に発表された「The åpocalypse Inside of an Orange」。
アルバムのオープニングを飾る「Melting Chariots」の曲を牽引していくリフ、その上の流れるサックスの不穏なメロディとのコントラストが凄まじくかっこいい一曲。全編を通してジャズ・ロックな雰囲気が強く、それだけにホアンのベース・ラインが自由に歌っているように思える。

ビッグ・サー

M83のリサとホアンによるユニット。ホアンの所属するバンドの中では比較的シンプルな音像で、ホアンが得意とするフレットレス・ベースによるプレイが存分に楽しめる。
本人がダリズ・カーからの影響を公言するようにミック・カーンを彷彿とさせるロックにおけるフレットレスならではのライン作りが際立っている。マーズ・ヴォルタやヴァットウ・ニグロでプレイしているホアンと同一人物とは思えない暖かみすら感じるベース・ラインは透明感のあるリサとの相性も抜群。

また、前述したようにマーズ・ヴォルタではオマーによるベース・ラインの指定が行われるケースも多く、ホアンのプレイヤビリティの高さはいやというほど分かるものの、クリエイティヴィティの高さまで理解したければこのビッグ・サーや、後述するヴァットウ・ニグロを聴くのが手っ取り早い。
とくにオススメしたいのが06年に発表された「Une Die Scheibe Andert Sich」。
1曲目からフレットレスの音色を活かしたリフで一気に引き込まれる。「ザ・フリーウェイズ・オブ・マイ・マインド」のようなヒップ・ホップ・テイストの曲ではミュートとエフェクトを効果的に使用しながらグルーヴを構築、「ビッグ・オフ・ザ・ビー」でのグリッサンドから生み出される心地よいグルーヴはホアンにしか出せないものだ。
2人ユニットという自由度の高さからリズムの種類も様々で、ホアンの作り出すベース・ラインもアイデアに溢れたものになっており、ベーシストにとってはネタの宝庫となっている。

この作品を聴くとジャコ・パストリアスやミック・カーンを聴いた後と同じくらいフレットレスが弾きたくなる、もしくは挑戦したくなるに違いない。

使用機材

マーズ・ヴォルタではLaklandのダリル・ジョーンズ・シグネイチャー・モデルを愛用。最近ではフェンダー プレシジョン・ベースのフレットレス(71年製)に、バルトリーニのピックアップをリアに搭載したものや、その他にも64年製のFender Jazz Bassや77年製のPrecision Bassを使用。

弦はアーニーボールの045~105で、フラットワウンド&ラウンドワウンドをベースによって張り分けている。
アンプはAmpegを主に使用。

エフェクターの使用頻度も高くライヴ時には足元にズラリとエフェクターを並べることもしばしば。
中でも一番のお気に入りはBOSSのコンプレッサーCS-2で、レーサーXからずっと愛用しているようである。
マーズ・ヴォルタのライヴではCS-2台に加えて、BOSSのイコライザーGE-7やライン・セレクターのLS-2、オクターバーのOC-2、ビブラートのVB-2やMXRのPhase100、M-133、DigiTechのシンセ・ワウやワーミー・ペダル、LINE6のDL4、DODのミートボックスなども使用している。

名盤:バンパーズ

B001H8C868

ホアンの参加ユニットとしては最もブッとんだ音楽を鳴らすのがこのヴァットウ・ニグロ。
マット・シェロット(Dr)とのリズム隊2人で創られたこの作品は荒々しく歪んだベースとパワフルなドラムによる強力なグルーヴで幕を開け、その後もヒップ・ホップ、ロック、ポップといったジャンルを自由に横断しながら様々な景色を展開していく。
ベースとドラムだけでありながら全く退屈せずにアルバムを通して聴けるのはホアンのエフェクトを活かした音色のカラフルさと、リズムとメロディを同時に聴かせるフレージングの妙によるところが非常に大きい。ビッグ・サーとはまた違った意味でベース的なネタの宝庫となっており、こちらも同様に必聴であると言えよう。

ちなみにこの「バンパーズ」完成後にマットはクラウデッド・ハウスに参加。その後はマーズ・ヴォルタでもドラムを努めたディーントニ・パークス(Dr)が参加しており、更にオマーも加えたトリオ編成でライヴを行っている。