ジャコ・パストリアス

ジャコ・パストリアス ジャコ・パストリアスの肖像

1951年12月1日 アメリカ ペンシルベニア州出身
【使用ベース】 : Fender Jazz Bass
【所属バンド】 : Jaco Pastorius , WEATHER REPORT 他

 ジャコ・パストリアスは主にジョー・ザヴィヌル率いるウェザー・リポートやジョニ・ミッチェルとのコラボレートで知られるエレクトリック・ベースの開拓者である。その卓越した演奏テクニックと抜群のフレージング・センスは多くのフォロワーを生み出し、ギタリストにとってのジミ・ヘンドリックスと呼んでもいいほど、ベーシストならば必ず直接的・間接的に影響を受けている存在である。

 ドラマーとしてプレイヤー人生をスタートさせたジャコは13歳の時のフットボール中の怪我が原因でドラムを叩き続けることを断念、当時ドラマーとして在籍していたバンドのベーシストが脱退したのを機にベースに転向する。その後ジャコは驚異的なスピードでベース・テクニックを上達させ、17歳のときにはフロリダでナンバー・ワンと呼ばれるほどの腕前となっていた。全世界のベーシストたちを驚嘆させたデビュー・アルバム「ジャコ・パストリアスの肖像」に収録されている名曲「コンティニューム」の原型はこの頃すでに出来ていたようである。その後数々のバンドを渡り歩きつつ、ジャコは彼特有のミュートを効かせたファンキーなプレイや、人工ハーモニクスといったテクニックを身につけていった。ウェイン・コクラン&C.C.ライダーズでミュージシャンとしての実力を高めたジャコはブラッド・スウェット&ティアーズのドラマー、ボビー・コランビーと出会い、彼の働きで伝説のデビュー作「ジャコ・パストリアスの肖像」を完成させる。

biography

ジャコ・パストリアスの肖像

 ボビー・コランビーの尽力により制作されたベーシストの聖典「ジャコ・パストリアスの肖像」は、1976年にリリースされた。ジャコの魅力を十分に伝えるべく、ボビーはジャズ/R&B/ポップスといったあらゆるジャンルの音楽をアルバムに取り入れることを提案、チャーリー・パーカーの名曲を超人的な速弾きでカバーしてみせた「ドナ・リー」に続く「カム・オン・カム・オーバー」ではヴォーカルにサム&デイヴを起用。その他にもハービー・ハンコック(key)、デヴィッド・サンボーン(as)、ランディ・ブレッカー(ts)、ランディ・ブレッカー(tp)、ナラダ・マイケル・ウォルデン(dr)、レニー・ホワイト(Dr)ドン・アライアス(Per)といった蒼々たるメンツが顔を並べており、バラエティ溢れる楽曲が揃うアルバムとなった。

 もちろんその中心にあるのはジャコのベースである。「カム・オン・カム・オーバー」でのファンキーなノリはミュートを絶妙に効かせたジャコならではのサウンドで展開され、「コンティニューム」での人工ハーモニクスを活かしたメロディアスなプレイ、「クル」で聴かせる高速リフなど、エレクトリック・ベースの可能性を一気に何段階も先に押し進めた恐るべき作品であった。そしてベース・プレイのみならず、その作曲能力も高く評価された。
とにかくベーシストならば必ず聴いておきたい傑作である。


Jaco Pastorius – Continuum

ウェザー・リポート

 「ジャコ・パストリアスの肖像」をレコーディングする以前から、ウェザー・リポートの中心人物でありキーボーディストのジョー・ザヴィヌルに自分を売り込み続けていたジャコは、2代目ベーシストであるアルフォンソ・ジョンソンの脱退を機にウェザー・リポートに加入することとなる(「ブラック・マーケット」のレコーディング中にアルフォンソ・ジョンソンがバンドを離れたため、残りのレコーディングはジャコが参加している)。既にベースの実力も、レコーディング技術も、そして作曲能力も超一流の腕前になっていたジャコは、すぐにバンドに欠かせない存在となっていった。

ヘヴィー・ウェザー ヘヴィー・ウェザー

 「ブラック・マーケット」に続く「ヘビー・ウェザー」でジャコは「ティーン・タウン」「ハボナ」の2曲を提供し、アルバムも大ヒットを記録した。そしてライヴにおけるジャコの存在感はアルバムを上回るもので、長髪にヘッド・バンド、絞り染めTシャツを身に付けてダンスを踊りながらロック顔負けのフィードバックを聴かせるソロ・プレイで観客を熱狂させた。この時ジャコはステージにベビー・パウダーを撒いて滑りをよくして踊りやすくしていたという。まさにエンターテインメントの才能も超一流だ。
 
 MXRのデジタル・ディレイのループ機能を使用した圧巻のベース・ソロはライヴ・アルバム「8:30」に収録されているので是非聴いていただきたい。その後ウェザー・リポートは「ミスター・ゴーン」「ナイト・パッセージ」「ウェザー・リポート’81」といったアルバムを発表。

https://www.youtube.com/watch?v=AuAMSE_xck4
Weather Report – Black Market

トップスターとしての重圧、そして…

 そして並行してビッグ・バンド「ワード・オブ・マウス」での活動を始めていたジャコは、ワード・オブ・マウスの活動に専念するため、ウェザー・リポートを脱退。しかしこの頃ジャコはトップ・ミュージシャンとしての重圧から手に染めたアルコールとドラッグに溺れ、その症状は次第にひどくなっていた。ジャコのセカンド・ソロとして発表された「ワード・オブ・マウス」はストリングスをフィーチャーし、ジャコのベース・プレイも冴え渡る作品となったが、ワード・オブ・マウスのツアー中、ジャコの奇行はますますひどくなりバンドは解散、そしてジャコは徐々にミュージシャンとして第1線から遠のいていくこととなってしまう。
 数年後、泥酔してライヴハウスに入ろうとしているところを止めたガードマンと格闘となり、その時の負傷が原因で死亡した。
享年35歳。

プレイスタイル

エレキベースの革命児として様々なテクニックを持つジャコであるが、その代表的なものをそれぞれのテクニックが聴ける楽曲とともに紹介していく。

メロディ弾き

フレットレス独特の柔らかいトーンによるメロディは、まさにベースが歌っているという表現がぴったり当てはまる。実際ジャコはフランク・シナトラの歌をベースでコピーしていたようで、ここから歌うようなニュアンスを習得したのだろう。またフレットレスでのメロディ演奏では、スライド等を多用したくなるところだが、ジャコのメロディにはスライドはそれほど聴かれない点も特徴的だ。
ジャコ・パストリアスの肖像に収録の「コンティニューム」、ウェザーリポートのヘビーウェザーに収録の「お前のしるし」などで聴ける。

R&Bグルーヴ

ジャコのR&Bフレーズは独特で、楽譜にするとほとんど隙間なく16分音符を埋め尽くすようなフレーズも多い。が、実際に聴いてみると、うるささを感じさせない小気味いいグルーヴとなっている。これは実音とゴーストノート等の使い分けが絶妙なためだろう。ちなみにジャコは、16分音符中心のR&Bフレーズや後述の早弾きなど細かいフレーズを弾く際には、フロントピックアップを絞ったリアピックアップ中心のセッティングにし、ピッキングもリアピックアック付近で行うことが多い。これによりやや硬めの立ち上がりの早い音色が得られ、細かいフレーズもより明確に聴こえてくる。
ジャコ・パストリアスの肖像に収録の「カモン カムオーバー」、インビテーションやバースデーコンサートに収録の「ザ・チキン」などで聴ける。


Weather Report – Elegant People (Live at Montreux 1976)
ジャコが始めてウェザー・リポートに参加したアルバム「ブラック・マーケット」に収録されている楽曲のライブ映像。このアルバムでは、ジャコは2曲の参加にとどまっており、この楽曲もレコーディングでは前任のアルフォンソ・ジョンソンがプレイしている。冒頭は休符を生かした隙間の多いフレーズとなっているが、サックスソロが始まる3:00過ぎあたりから徐々に音数が増え、ジャコ独特のR&Bフレーズが堪能できる。かなりリアピック寄りでピッキングを行っているのも画像から確認できる。

速弾き

ジャコの速弾きは、単純な速さも驚異的だが、さらにフレージングにも特徴がある。簡単にいうと、運指的にエレキベースでは弾きにくいフレーズも多く登場するのだ。これは、ジャコがジャズサックスプレイヤーのチャーリー・パーカー、ギタリストのジミ・ヘンドリックスやビートルズ、バッハなどエレキベースプレイヤー以外の多くのミュージシャンから影響を受けてきた(ちなみにエレキベースプレイヤーではジェリー・ジェモットからの影響を公言している)からだろう。実際ジャコのソロアルバムでは彼らの楽曲を取り上げている。

ジャコ・パストリアスの肖像に収録された(ユースト・トゥー・ビー・ア)チャ・チャ、ウェザーリポートのヘビーウェザーに収録の「ハヴォナ」などで聴ける。どちらのテイクもベースソロがあり、これらのレコーディングから40年あまりが経過し楽器のテクニックも向上してきた現在においても、速さ・フレージングともに驚異的といえるだろう。

ハーモニクス

ジャコはハーモニクスを積極的に楽曲に取り入れた初めてのベーシストといっていいだろう。通常のベースラインに取り入れるほか、ハーモニクスを主体にしてのメロディ演奏やソロベースの楽曲も作成している。チューニングにも用いられる5フレットや7フレットのハーモニクスは、慣れれば誰でも容易に音を出すことが可能だが、ジャコは4フレットや6フレット、2フレットと3フレットの間にあるハーモニクス(じつはここには複数のハーモニクスポイントがあり、これも使い分けている)などの多くの位置のハーモニクスを演奏に取り入れている。実際にベースで音を出してもらうと分かると思うが、これらのハーモニクスはただ音を出すだけでも難しく、楽曲の流れの中で正確に鳴らすのは、左手の位置感覚・右手のタッチ感覚ともに驚異的といっていいだろう。また左手で通常通り押弦をし、右手の親指等でハーモニクスポイントを軽く触り、同時に人差し指等でピッキングする人工ハーモニクスといわれるテクニックを用いることもある。

ジャコ・パストリアスの肖像に収録された「トレイシーの肖像」はハーモニク奏法を中心とした美しいソロベース楽曲。 ウェザーリポートのヘビーウェザーに収録の「バードランド」では冒頭から人工ハーモニクスを用いたメロディ演奏が聴ける。

エレキベースによるジャズ演奏

フュージョン等ではないストレートなジャズにおいて、エレキベースが市民権を得たのもジャコの功績と言っていいだろう。これはジャコが自身の初のソロアルバム「ジャコ・パストリアスの肖像」の冒頭にジャズサックスプレイヤーのチャーリー・パーカーの楽曲「ドナ・リー」を収録したことに端を発する。この演奏は世界中のミュージシャンに影響を与え、マーカス・ミラーは「1年間このレコードをターンテーブルから外すことができなかった。」と語っている。ちなみに、この「ドナ・リー」はパーカッションとのデュオ演奏で、ジャコはいわゆるベースラインは演奏していないが、その他の様々な楽曲で聴かれるウォーキングベースのグルーヴ感も素晴らしい。
晩年のピアノトリオ編成のアルバム「スタンダード・ゾーン」は、その名の通りジャズスタンダードを取り上げたアルバムで、メロディ・ベースライン・アドリブソロと、ジャコのジャズ演奏を堪能できる。


Jaco Pastorius (full length) Throwback Thursday From the MI Vault
アメリカの音楽学校でのクリニックの映像だろう。終盤38:45あたりからジャコのジャズ演奏が聴ける。ウォーキングベースのノリが心地よく、さらに合間に入る3連符や和音、ハーモニクスを用いたアグレッシブなフィルは、ウッドベースではなかなか再現できないエレキベースならではのものといえるだろう。アドリブソロも、ジャコお得意の3連符の5つ割などのトリッキーなリズムを多用しており、とてもスリリングだ。6:15あたりでハーモニクス、20:20あたりからはR&Bフレーズの演奏も見れる。
ジャコの弾いている楽器はトレードマークのジャズベースではなく、画像からはブランドの判別はできないが、音色はいつもの「ジャコトーン」になっているのも非常に興味深い。

使用機材

jazz-bass 使用していたジャズ・ベース

 主にメインで使用されていたのは1962年製のフェンダー・ジャズ・ベース。これに1960年製のジャズ・ベースのネックをセットし、フレットレス加工を施していた。そのあまりに豊かなサウンドにジョー・ザヴィヌルがウッド・ベースと聴き間違えた、という逸話が残っている。フレットレス・ベースにラウンド・ワウンドの弦を組み合わせて、甘いトーンでありつつもブライトなサウンドを生み出していた。

シグネチャー・モデル:Jaco Pastorius Jazz Bass

Jaco Pastorius Jazz Bass

フェンダー・カスタムショップ、フェンダーUSA、スクワイヤと、フェンダーが持つ3ブランドからシグネチャーモデルが登場。

Jaco Pastorius Jazz Bassを…
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アンプ

 アンプはアコースティックの360を愛用。ベース・ソロの際にはこのアンプを思い切り歪ませてフィードバックさせながらジミ・ヘンドリックスの「紫のけむり」や「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」などのフレーズを弾いていた。

ベース用アンプ – SuperNice!ギターアンプ

エフェクター

 エフェクターはMXRのデジタル・ディレイを使用、ループ機能を使用してバッキングをループさせ、その上でソロを弾くという、当時としては革新的なプレイで観る者を圧倒した。ディレイを使用したジャコのソロはジョニ・ミッチェルのDVD「シャドウズ・アンド・ライト」で観ることが出来るので必見。

MXRのエフェクター – SuperNice!エフェクター

名盤:ミンガス

 ジャコがウェザー・リポートの活動と並行して参加したジョニ・ミッチェルの「ミンガス」。ベースの巨人チャールズ・ミンガスに捧げられたこのアルバムはジョニ・ミッチェルの歌、作曲の素晴らしさとジャコのベース・ラインが静かに火花を散らす名盤。ウェザー・リポートのようなインスト・バンドで自由に弾きまくるジャコも魅力的だが、ジョニ・ミッチェルの歌のバックでカウンター・メロディとして機能しつつバンドにグルーヴを与えるジャコのプレイは神懸かっており、歌伴ベースも超1級であったことが確認出来る。「デ・モインのおしゃれ賭博師」でのプレイは必聴。