ベースとは、低音部分を担当する楽器や音域のことを言います。音楽を演奏する上でベース音は非常に重要な要素の一つです。様々な民族音楽を経て世界の共通語として洗練された現代音楽では、ギターがなくても成立する音楽はたくさんありますが、ベースが存在しない音楽は多くはありません。
楽器としてのベースはエレクトリックなものからアコースティックなものまで様々に存在しますが、通常4本の弦で構成される弦楽器です。弦楽器の中でも最も弦が太く、和音を奏でる、というよりはアンサンブルの中でベース音を奏でるのが主な役割となっています。また、ベースは楽曲の骨組みであるリズム感/コード感を担う重要な楽器でもあります。アンサンブルの中では一見地味なパートに思われがちですが、ドラムと共に楽曲を支配するポジションなのです。
エレキベースが誕生する以前の低音の弦楽器は、現在でもクラシックやジャズで用いられているコントラバス(ウッドベース)が主流でした。コントラバスの歴史は長く、その原型とされているヴィオローネという楽器は16世紀ごろにヨーロッパで用いられていました。このヴィオローネが次第に形を変えていき、20世紀初頭には現在のコントラバスの形になります。
ベースの起源は一般には、ヴィオローネ(Violone)と呼ばれるコントラバスの先祖に当たる5本の弦から成る楽器で、16~18世紀頃ヨーロッパで用いられたといわれています。
小規模なアンサンブルでは現在のチェロのような役割として低音部の旋律を、やや大規模なアンサンブルやオーケストラでは、チェロとともにその8度下(ユニゾンという)を演奏する、現在のコントラバスの役割を担っていました。
19世紀に入り、ヴィオローネが発達し、コントラバス(独: Kontrabass / 英: Contrabass / 伊: Contrabbasso)が誕生します。フレットレスな弦楽器で、馬の尻尾でできた弓を弦に擦ることで音を発生させる、今日のオーケストラでもよく見られるスタイルです。誕生当時は弦の数は3本から6本までと一定ではありませんでしたが次第に洗練され、現在は4本の弦から成るものが主流となっています。
チューニングは上からG-D-A-E と、エレキベースやギターの3~6弦と同じです。
ほかの楽器が束になろうとかないっこないです。だいいちぼくらがいなかったら、なに一つ始まるはずがないんですよ。だれにでもきいてみてください。オーケストラは指揮者なんていなくても困らないけど、コントラバスぬきじゃ話にならないって、音楽家ならみんな口をそろえていいますから。
~パトリック・ズュースキント『コントラバス』より~
Giovanni Bottesini Concerto for Double Bass No 2 in B Minor
クラシックの世界では、このようなベース(コントラバス)のソロ演奏は古くから行われていました。
19世紀末にジャズやブルースなどのポピュラー音楽を演奏する際に人々はコントラバスを使い始めました。当時のJazzの世界でコントラバスのことを”ウッドベース”と呼びました。それまでの弓によって弦を擦って音を出す奏法から、指で弦を弾くピチカート奏法が主流にとって変ります。
ウッドベースは後にロックンロール創世記にも活躍し、ロカビリーが登場すると、弦を指板に叩きつけるようなスラップ奏法が登場します。
Fender American Standard Precision Bass®
世界初のエレキベースである「フェンダー・プレシジョンベース」は1951年、レオ・フェンダーによって開発されました。この時代はジャズの全盛期で、ヒットチャートには、現在ではいわゆるジャズスタンダードとして演奏されている楽曲が並んでいました。が、同時にロックンロールの黎明期でもあり、低音楽器にも今まで以上の音量が要求されるようになってきました。このような背景からエレキベースは誕生していったのでしょう。ちなみに「プレシジョン」とは正確という意味で、フレットのないウッドベースに比べ容易に音程が取れることを表しています。このことからもエレキベースがウッドベースを代替するものとして作られたことがうかがえます。
1950~60年代の音源を聞いてみると、1950年代中盤まではジャズ限らずロックンロール等でもウッドベースが用いられていることが多いようです。が、次第にエレキベースでの録音が多くなり、60年代に入るとエレキベースが大半になっていきます。そして60年代中盤にかけてビートルズ・ローリングストーンズなど世界的なロックバンドが次々とデビューしていき、エレキベースは低音弦楽器の主役に躍り出ます。ちなみに世界一ポピュラーなエレキベースである「フェンダージャズベース」もこの頃(1960年)に誕生しています。
Ray Brown & John Clayton Five O'Clock Whistle 1
レイ・ブラウンとジョン・クレイトンによるウッドベースのデュオ演奏。レイ・ブラウンは1940年代から2000年代まで第一線で活躍した伝説的なジャズベーシストです。
エレキベースと比較すると、エレキギターの歴史は長く1930年代初頭に誕生しています。当初はクリーンな音色でジャズに使用されることが多かったようです。が、後にロックンロールの誕生により、現代でもエレキギターの音として多くの方がイメージする、歪んだ音色が用いられるようになります。この歪んだ音を得るためにはある程度の音量が必要で、必然的にバンド全体の音量も上がる傾向になってきました。すると、アコースティック楽器であるウッドベースでは音量不足になってしまい、エレキギターと同じ手法で電気によって音量を増幅することのできるエレキベースが誕生したのでしょう。つまり、エレキベースは、エレキギターとウッドベースを融合させたものと捉えてもいいのではないでしょうか。
1970年代になり、ジャズとロックが融合したフュージョンの誕生により、ベースがメロディーを奏でたりソロを担当するという場面が見られるようにります。またスラップ(チョッパー)奏法が広まったのもこの時代で、いままでは地味な伴奏楽器だったエレキベースが主役としてスポットを浴びることが多くなってきます。これらのことなどからベースにも多彩な音色が音色が求められるようになり、
アクティブ化されたベースがポピュラーになってきます。また、フレットというエレキベースの大きな武器をあえて取り去りることにより、半音以下の音程も出せる等の様々な演奏表現が可能な「フレットレスベース」もこのころからポピュラーになってきます。
Return to Forever – School Days – LIVE HD
スタンリー・クラークは、ベースで積極的にメロディーやソロをとるスタイルの先駆者の1人です。また彼の使用するアレンビックは、世界初のアクティブベースとして知られています。
Ibanez SR605
前述のようにベースがメロディーを担当するようになったことや、エレキベースよりも低い音の出るシンセベースの登場により、ベースにも今まで以上の音域が要求されるになってきます。このような流れから1970年台に5弦ベース、6弦ベースなどの多弦ベースが登場します。当初はまだポピュラーなものではありませんでしたが、80年代からフュージョンシーン等を中心に広まっていき、現代では、特に5弦ベースはどのようなジャンルでも普通に見られるスタンダードなものになってきました。また、演奏技術と楽器製作の技術の双方の発展により、6弦以上の弦の張られた超多弦ベースも見られるようになっています。
Fourplay “Westchester Lady” Live at Java Jazz Festival 2011
ベースのネイザン・イーストはヤマハの6弦ベースをメイン楽器に使用しています。エリック・クラプトンのバンドのベースを長年担当していることでも知られています。
Warwick Rockbass Triumph
エレキベースの登場以降もジャズの世界では低音楽器の低音楽器の主役の座を守ってきたウッドベースですが、ポップスやロックの世界ではその音を聴く事が次第に少なくなります。が、2000年代以降に、奏法や音色はウッドベースに近いがエレキベースと同じようにアンプから音を出せる「エレクトリックアップライトベース」がポピュラーになり始め、ポップス等のジャンルでも再びウッドベースの音が聴かれるようになってきました。またこの楽器は、エレキベースと同時に持ち歩くことや、音量に制限のある場所での練習も比較的容易なため、エレキとの二刀流プレーヤーも増えてきています。
ロックの誕生とほぼ同時に開発されたエレキベースという楽器ですが、このようにまとめてみるとエレキベースの進化がそのままポピュラー音楽の多様化に繋がっているといっても過言ではないのでしょうか。
ベースの売れ筋を…