93年のデビュー・アルバム「ジャミロクワイ(Emergency On Planet Earth)」、続く94年の「スペース・カウボーイの逆襲(The Return of the Space Cowboy)」で一躍アシッド・ジャズ人気を牽引する存在になったジャミロクワイ。MTVの盛り上がりもあってジェイ・ケイのファッショナブルなルックスとダンスも人気を集めた。はっきり言ってスチュワートが参加しているジャミロクワイの初期3作品は音楽作品としても、ベーシスト的な観点から聴いても、間違いなくハズせない名盤だ。まだ聴いていないとしたら、音楽リスナーとしてとてももったいないと思う。
ジャズとジャム、ファンクとソウルをスタイリッシュにミックスした1stと2nd、そしてそれをさらにポップかつキャッチーに研ぎ澄ませ、カップヌードルのCMとともにお茶の間にまでアシッド・ジャズを浸透させた世界的名盤の3rd「トラベリング・ウィズアウト・ムービング~ジャミロクワイと旅に出よう~ Travelling Without Moving」。その全てにおいて曲の骨格を強靭かつしなやかなグルーヴで支えていたのがスチュワートなのだ。
3rdの冒頭を飾り、前述のCMに起用されたことで日本でも一気にブレイクしたジャミロクワイ。それまでジャミロクワイやアシッド・ジャズに興味のなかったファミリー層までもスチュワートのプレイを聴き、ジェイ・ケイのソウルフルな歌声とダンスに魅了されていた。なんていい時代なんだ…。
2作目である「スペース・カウボーイの逆襲(The Return of the Space Cowboy)」までのジャミロクワイはアシッド・ジャズ界隈の中でもジャムのテイストが濃く、スチュワートのプレイもスタイリッシュでありつつもアーシーな雰囲気を匂わせる部分が多く、完成度の高くキャッチーな3rdにおけるスチュワートのプレイよりもこちらのほうが好みだというファンも多い。ベース・プレイ的にはどのアルバムも必聴だが、ベースの自由度の高さが凄まじいフレーズの数々を生み出している「スペース・カウボーイの逆襲」を名盤として紹介したい。
「スペースカウボーイの逆襲」は8分を超える「Just Another Story」で幕をあける。隙間をいかしてハネまくるファンキーなプレイと指板の上を縦横無尽に走らせるグルーヴィなラインを織り交ぜながら、曲が持つコズミック・ファンクなテイストを盛り上げていく。もうこの冒頭の1曲だけでアルバム1枚聴いたくらいの心地よい疲労感に包まれる。つづく「Stillness In Time」は「これぞジャミロクワイ」なジャジーなトラックとジェイ・ケイのソウルフルなヴォーカルが絶妙に溶け合うナンバー。スチュワートはスピーディなフィルインを随所に差し込みながら曲を盛り上げていく。「Light Years」では前半のユニゾンリフのループから、ポップなソウル・チューンへの切り替えが鳥肌モノの展開となっており、スチュワートのラインがそのギャップを自然に埋めている。マニフェスト~ではジェームズ・ジェマーソンよろしくグルーヴ感満載の歌伴ベースを聴かせ、ザ・キッズではまさに弾きまくりという表現がしっくりくる高速ファンキー・パンク。あぁ、もうお腹いっぱい、こんなにカッコよくて最高なノリのベースはコピー出来ません。いやいや、まだまだアルバムは続きます。
個人的にこの作品の中でのスチュワートのベストプレイは「Scam」じゃないかと思っている。グルーヴィで前へ前へとつんのめるようなスラップが最高にクール!聴いてるだけでウキウキするようなこのフレーズ、ベーシスト諸兄には是非コピーにチャレンジしていただきたい。そしてジャム・ファンク・ナンバー「Journey To Arnhemland」では思い切り歪ませたサウンドでよりディープな世界観を演出。アルバムの最後には超絶ジャズ・ファンク、「Space Cowboy」が待っている。あまりにもベースの聴きどころが多く、ついつい真似したくなるテクニックが満載。今こそ聴きたい新たなベースの金字塔的アルバム。