スティーブ・ハリス(Steve Harris)

「Flight 666」
スティーブ・ハリスは左から3番目

スティーブ・ハリス(Steve Harris)本名Stephen Percy Harrisはイギリス・ロンドン出身のベーシストです。ハードロック・ヘビーメタルバンド「IRON MAIDEN(アイアン・メイデン)」のベーシストでリーダーでもあります。バンドの多くの楽曲の作詞作曲もこなしています。フェンダープレシジョンベースを独特のフィンガーピッキングで力強く弾くスタイルで知られる、世界トップクラスの人気を誇るヘビーメタルベーシストです。

【使用機材】Fender Precision Bass
【所属バンド】 IRON MAIDEN

biography

1956年3月12日イギリス・ロンドンで生まれます。少年時代はプロサッカークラブ「West Ham United FC」のユースチームに所属し、将来を嘱望されるプレーヤーでした。17歳の時に初めてエレキベースを手にし、独学で学び始めます。その後いくつかのバンドに所属しますが、次第に自作曲の演奏を望むようになり1975年に「アイアン・メイデン」を結成します。

メジャーデビュー以前

結成当初から数回のメンバーチェンジを経て、1978年、ボーカルにポール・ディアノ、ギターにデイヴ・マーレイ、ドラムにドウグ・サンプソンの布陣でデモテープを作成します。この中の楽曲「Prowler」がサウンズ紙のヘビーメタルチャートでデモながら1位を記録するなど注目を集め、79年12月にはメジャーレーベルEMIとの契約を果たします。この間もバンドは頻繁にメンバーチェンジを繰り返しますが、デイヴとのツインギターを組むプレーヤーとしてデニス・ストラットン、ドラムにクライヴ・バーが加入し、スティーブ、ポール、デイヴ、デニス、クライブという5人のメンバーでメジャーデビューすることとなります。

メジャーデビュー~全盛期

Piece of Mind 4thアルバム「Piece of Mind」

80年1月にファーストシングル「Running Free」、4月にファーストアルバム「Iron Maiden」をリリースし、「Iron Maiden」は全英チャート最高4位を記録するヒット作品となります。この作品の完成直後にはギターのデニス・ストラットンに変わりにエイドリアン・スミスが加入し82年はセカンドアルバム「Killers」を完成させます。さらに、このアルバムのツアー終了直後にはボーカルのポール・ディアノ、サードアルバム「The Number of The Beast(魔力の刻印)」のツアー終了後にはドラムのクライヴ・バーがバンドを脱退しますが、ボーカルにはブルース・ディッキンソン、ドラムにはニコ・マクブレインを新しく迎え、83年に4thアルバム「Piece of Mind(頭脳革命)」を完成させます。このアルバムは全英チャート最高3位、全米チャート最高14位を記録し、バンドは全盛期を迎えます。


Iron Maiden- Iron Maiden(Live at long Beach Arena)
タイトルからも分かるようにバンドの代表曲の1つで、ファーストアルバム「Iron Maiden」に収録されています。現在でもライブの最後にほぼ確実に演奏されている楽曲です。

低迷期

この後、88年の7thアルバム「Sevens Son of a Sevens Son(第七の予言)」まで不動のメンバーで活動しますが、ハードロック/ヘビーメタル自体の人気低下に伴い、バンドの勢いにも次第に翳りが見え出すようになり、アイアン・メイデンは2年間の活動休止をすることとなります。さらには休止明け第1作となる8thアルバム「No Prayer for the Dying」製作中にギターのエイドリアン・スミスが、9thアルバム「Fear of the Dark」のツアー終了後の93年にはボーカルのブルース・ディッキンソンが相次いでバンドを離れることなります。このときスティーブはバンドを解散することも考えますが、スティーブとともにデビュー当時からバンドに在籍していたデイヴ・マーレイの「スティーブがいる限りアイアン・メイデンは続く」という言葉により、バンドを存続する決意を固めます。

第2の全盛期~現在

The Final Frontier 15thアルバム「The Final Frontier」

新しいボーカルを迎え2枚のアルバムを作成しながらも、バンドの活動は次第にスケールダウンしていきます。そこでバンドは、この当時同様にソロ活動に行き詰っていたブルース・ディッキンソン、エイドリアン・スミスにオファーをし2人はこれを快諾。ともに1999年にバンドへ電撃復帰し、さらにエイドリアンの変わりに加入していたギタリスト、ヤニック・ガーズもバンドに残ったため、トリプルギターの6人編成となります。
2000年代に入り、ペースこそ早くはないものの着実にアルバムリリースを重ね、2010年の15thアルバム「The Final Frontier」が本国イギリスを含めた世界28カ国でランキング1位を記録、さらに2015年の16thアルバム「The Book of The soul(魂の書)」も2作連続で全英1位に輝くなど、第2の全盛期といっていい活躍を見せます。さらに2012年にはスティーブが初のソロアルバム「British Lion(英吉利の獅子)」をリリースするなど、現在も精力的な活動を行っています。

The Final Frontier ソロアルバム「British Lion」


Steve Harris British Lion – Eyes of the young(Live)
ソロアルバム「British Lion」に収録された楽曲です。IRON MAIDENとは一味違う、ポップなギターロックといったテイストの楽曲です。

プレイスタイル

スティーブ・ハリスのプレイスタイルで最も特徴的なのは、やはり右手のピッキングスタイルでしょう。奏法的には人差し指・中指で弦を弾く、いわゆる2フィンガー奏法なのですが、スティーブのそれは通常とは大きく異なるものとなっています。一般的な2フィンガー奏法の場合、親指をピックアップ等に置き、人差し指・中指を軽く丸め弦を縦方向に振動させるようにピッキングしますよね。が、スティーブの場合親指は特に固定せず、人差し指・中指は棒のように伸ばしたまま指板面に弦を叩きつけるようなピッキングをしています。これにより弦とフレットのぶつかるフレットノイズが発生し、スラップのサムピングのようなアタック感を持った音となります。ラウンドワウンド弦を張ったジャズベースなどでこの奏法で演奏すると、アタックばかりの目立つボトム感のない音になってしまうかもしれませんが、スティーブはプレシジョンベースに極太のラウンドワウンド弦を張ることで、ボトム感や泥臭さもある独特のサウンドを生み出しています。


Iron Maiden- Hallowed Be Thy Name(Live at long Beach Arena)
サードアルバム「The Number of The Beast」に収録された、ドラマティックな展開が印象的な名曲です。まるでピック弾きのようなアタック感の強い音色ですね。2:40あたりから独特な右手のピッキングフォームも確認できます。

他にもアルペジオやコード弾きの多用もスティーブの特徴の1つとして挙げられます。アルペジオは静かに始まる楽曲で多く聴くことができます。ギターが担当してもよさそうですが、ベースの低音でのアルペジオによる重厚さを狙ったのでしょう。コード弾きではルート音と5度の音を同時に弾く、いわゆるパワーコードが多用されています。


Iron Maiden- Fear of the Dark(Live at Donington Park)
9thアルバム「Fear of the Dark」のタイトル曲です。0:40あたりからベースのアルペジオを聴くことができます。静的なこの部分と、疾走感のある本編の対比がかっこいいですね。

使用機材

Steve Harris Precision Bass Steve Harris Precision Bass

スティーブ・ハリスはアイアン・メイデンのデビュー時から一貫してフェンダー・プレシジョンベースをメインとして使用しています。何本かのプレシジョンベースを所有しているようですが、その中でもメインのものは決まっており、このベースは何度かボディの塗装を塗り変え、使い続けられています。ライブ映像等を見比べると、年代ごとに違うカラーリングの楽器を持っていますが、実はすべて同じ楽器でカラーが変わっているだけなのです。このメインのプレシジョンベースは71年製でボディはアッシュ、ネック・指板はメイプル製となっています。
またネックは、標準的なプレシジョンベースより細く、ジャズベースと同じ幅のナローグリップが採用されています。ピックアップはSeymour Duncan製のものが搭載され、コントロールに関してはトーンの回路が取り外されており、ワンボリュームのみというシンプルなものとなっています。トーンを外すことで常にトーンが全開となる上、回路自体が持つ抵抗もなくなるため、よりブライトな音色を得ることができるのです。またブリッジは当初はオリジナルのものでしたが、4thアルバムの頃からBADASS BASS Ⅱに交換されています。ちなみに、スティーブは金属パーツのサビを極端に嫌い、ペグ等の金属パーツは数ヶ月というかなりの頻度で交換されています。

Steve Harris Precision Bass:ボディ

また、フェンダー社からはスティーブ・ハリスシグネチャーのプレシジョンベースが発売されています。こちらのベースはホワイトボディに、ボディサイドにピンストライプの縁取り、ミラーピックガード、さらにボディにはスティーブもかつてユースチームに所属したサッカークラブ「West Ham United FC」のロゴがあしらわれ、現在のスティーブのベースのカラーリングが忠実に再現されています。サウンド面でも、Seymour Duncanのオリジナルピックアップが搭載されるなどスティーブのプレシジョンベースに迫るものとなっています。
弦はロトサウンドのRS77”JAZZ BASS”というフラットワウンド弦を長年愛用していました。フラットワウンドを使用する理由については「スライド時などに発生するフレットノイズを出さないため」と語っています。近年ではロトサウンドからSH77というスティーブ・ハリスシグネチャーの弦が発売されておりそちらを使用しているようです。この弦は.050・.075・.095・.110という、かなり太目のセットとなっています。弦は、レコーディングでは1曲ごと、ライブでは1ステージごとと、切れるまで換えないというプレーヤーも多いフラットワウンド弦にしてはかなりの頻度で交換されています。