スタンリー・クラーク(Stanley Clarke)

The Stanley Clarke BandThe Stanley Clarke Band

スタンリー・クラーク(Stanley Clarke)は、アメリカ・フィラデルフィア出身のベーシストです。主にジャズ・フュージョンのフィールドで活動し、ピアニストのチック・コリアがリーダーとなったバンド「リターン・トゥー・フォーエバー」や自身のリーダーバンド、日本のピアニスト上原ひろみとの活動などで知られています。また、エレキベースとウッドベースをどちらも非常に高い水準で弾きこなす、「二刀流」ベーシストのパイオニアとされています。

【使用機材】Alembic
【所属バンド】Return to Foreverなど

biography

生い立ち

1951年6月30日アメリカ・フィラデルフィアで生まれます。幼少時にはヴァイオリンやチェロを学んでおり、14歳でコントラバス(ウッドベース)に転向します。この頃まではクラシックの演奏家を志していましたが断念、17歳でフィラデルフィアミュージックアカデミーへ入学し本格的にジャズを学び始めます。また、この時期からエレキベースの演奏もするようになります。19歳でニューヨークへ移住し、ホレス・シルバー、アート・ブレイキー、スタン・ゲッツなど、ストレートなジャズのライブ・セッションへ参加し、プロミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせました。

1970年代

Return to Forever永遠の名盤「Return to Forever」

1972年、ピアニストのチック・コリアとスタンリーを中心に、サックス・フルートのジョー・ファレル、ドラムのアイアート・モレイラ、ボーカルのフローラ・プリムをメンバーに迎え入れ、いわゆるフュージョンバンドの先駆けとされるバンド「リターン・トゥー・フォーエバー」を結成します。同年にはアルバム「Return to Forever」(厳密にはチックのソロ名義の作品)をリリースし、ジャズやラテン・ブラジル音楽が融合したサウンドが話題となりました。

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翌年には、現在でもセッションの定番曲としてたびたび取り上げられる名曲「スペイン」の収録されたアルバム「Light as a Feather」をリリースします。


Stan Getz Quartet – Captain Marvel(Live at Montreux 1972)
サックス奏者スタン・ゲッツのバンドにスタンリーやチック・コリアが参加したライブ映像です。演奏されている「Captain Marvel」は、アルバム「Return to Forever」に収録されていますが、スタン・ゲッツの同名のリーダーアルバムにも収録されていて、そのレコーディングにはスタンリーやチック、さらにはアイアート・モレイラもパーカッションで参加しています。

ここまでの2作品は、チックがエレキピアノこそ弾いているものの、スタンリーはほぼウッドベースのみを演奏しており、アコースティックなサウンドでした。が、チックとスタンリー以外のメンバーがバンドを脱退、新たにギターのビル・コナーズ、ドラムのレニー・ホワイトが加入したことにより、そのサウンドはロック色を強めていき、このバンドでのスタンリーの演奏楽器もエレキベースが中心となってきます。

黄金期〜解散

1974年にはギターのビル・コナーズが脱退し、代わりにアル・ディ・メオラが加入、のちに黄金期といわれるメンバーが揃うことになります。このメンバーでは「Where Have I Know You Before(銀河の輝映)」、「No Mystery」、「Romantic Warrior(浪漫の騎士)」の3枚のアルバムをリリースします。これら3枚のアルバムはすべて商業的にも成功を収め、とくに「Romantic Warrior」は50万枚以上を売り上げる、バンド史上最大のヒット作となりました。
「Romantic Warrior」を最後にアル・ディメオラとレニーホワイトはバンドを離れ、代わりに初期のメンバーであったジョー・ファレルをはじめとした5人のホーン奏者が加入します。1977年には、このホーンセクションをフューチャーしたアルバム「Music Magic」をリリースしますが、このアルバムを最後にリターン・トゥー・フォーエバーは解散することとなります。

ソロアルバム

スタンリーは70年代初めからソロ名義のアルバムの制作にも着手しています。ファーストソロアルバムは、リターン・トゥー・フォーエバーのファーストアルバムと同じ1972年にリリースされた「Children of Forever」で、タイトルからも想像できるように初期リターン・トゥー・フォーエバーと似た雰囲気になっています。このアルバムはチック・コリアがプロデュースし、スタンリーはウッドベースのみをプレイしています。
続く、自身の名を冠したセカンドアルバム「Stanley Clarke」はセルフプロデュースにより制作され、多彩なジャンルの楽曲を扱い自らのエレキベース・ウッドベースを前面に出すという、現在に至るまでのソロアルバムでのスタイルを確立させています。この後もジェフ・べックの参加が話題となった「Journey to Love」や、アルバムタイトル曲がスタンリーの代表曲の1つとなっている「School Days」など70年代だけで6枚のソロアルバムをリリースしました。

1980年代

80年代のスタンリーの活動としては、キーボーディストのジョージ・デュークとのユニット「The Clark/
Duke Project」が有名で、1981年のアルバム「The Clark/Duke Project」を始め、3枚のアルバムをリリースしています。このユニットの楽曲は歌もの中心のファンキーかつポップな曲調のものが多く、スタンリーのボーカリストや作曲家としての側面も強く打ち出したものとなっています。また1989年にはポリスのドラマー、スチュワート・コープランドとのユニット「animal logic」としてアルバムをリリースし世界ツアーも行いました。


Stanley Clarke,George Duke – Sweet Baby
クラーク・デュークプロジェクトの1stアルバムに収録された、ジョージ・デュークのボーカルによる、アース・ウィンド&ファイアを思わせる美しいメロディのバラードです。シングルカットされ、ビルボードの総合チャートで最高19位を記録しました。

この時期のソロアルバムは、ロック風・The Clark/Duke Projectと同様のファンク・ポップ風・70年台のソロアルバムと同様の自身のベースを前面に押し出したものなど、様々な作風ものが作られました。中でも、タップダンスとのデュオで演奏されたタイトル曲や、ジャズベーシストのチャールズ・ミンガスの代表曲「Good Bye Pork Pie Hat」が収録された1988年のアルバム「If This Bass Could Only Talk」が、ベースプレイという観点での聴き所が多い作品になっています。さらに、この頃のソロアルバムから、スタンリー自身の他にもベーシストを招いたツインベースの楽曲も多く見られるようになります。

1990年代

スタンリーは80年代後半から映画音楽の製作に携わるようになります。その影響からか、90年代の映画のサントラやライブアルバム以外のソロ名義のアルバムは、1993年の「East River Drive」の1枚のみでした。この作品では「Illegal」、「Lords of the Low Frequencies」の2曲における、カメルーン出身のベーシスト、アマン・サバル・レッコとのベースバトルが聴き所となっています。
ソロ以外の活動では、リターン・トゥー・フォーエバーのメンバーでもあったギタリストのアル・ディ・メオラ、バイオリニストのジャン=リュック・ポンティとのユニットによる1995年のアルバム「The Rite Of The Strings(スーパー・ストリングス)」がよく知られています。3人ともにエレキ・アコースティック両方の楽器を使い分ける名手ですが、このユニットでは全員アコースティック楽器のみを演奏しています。


The Rite of The strings – Full Concert – 08/21/95 – Newport Jazz Festival(OFFICIAL)
「The Rite Of The Strings」のメンバーによるライブ映像です。9:10あたりからのウッドベースの速弾きが素晴らしいです。

2000年代以降

2000年代には、ソロ・セッションともにストレートなジャズを演奏する作品が多くなります。2006年にはドラムのエンデゥグ・チャンクラーをリーダーとし、ピアノのパトリース・ラッシェンとのトリオでジャズスタンダードのみを扱ったアルバム「Standards」を、さらに2008年には日本のジャズピアニスト、上原ひろみとドラムのレニー・ホワイトとのトリオで、スタンリーのリーダーアルバムとしては初のジャズ作品である「Jazz in the Garden」をリリースします。またこの他にも、2003年の「1,2, To the Bass」、2007年の「The Toys of Men」、2010年の「The Stanley Clarke Band」、2014年の「UP」というリーダー作を制作するなど、ソロ活動は再び活発になっています。


Stanley Clarke Hiromi – Three Wrong Notes – TV Jazz.tv
スタンリーと上原ひろみのデュオによる演奏です。アルバム「Jazz in the Garden」にも収録されているスタンリーのオリジナル曲で、ストレートなジャズの楽曲となっています。

一方、2007年12月には、アル・ディ・メオラ在籍の黄金期のメンバーによる リターン・トゥー・フォーエバーの再結成が発表され、2008年5月には全米・ヨーロッパを巡るツアーが行われました。このライブの模様は「Returns(リターンズ~リユニオン・ライブ)」という2枚組みのライブアルバムとしてCD化されています。さらに2011年にはアル・ディ・メオラに代わり、ギタリストとしてフランク・ギャンバレが、さらにバイオリニストのジャン=リュック・ポンティが加わった新しい編成での活動をスタートさせ、久しぶりの来日公演も行われました。
また、2008年にはマーカス・ミラー、ビクター・ウッテンと3人で3ベースユニット「S.M.V.」を結成しアルバム「Thunder」をリリースします。


Return To Forever – Hymn Of The Seventh Galaxy(From”Returns Live”DVD)
2008年のリターン・トゥー・フォーエバー再結成ツアーのライブ映像です。この楽曲のオリジナルは3rdアルバム「Hymn Of The Seventh Galaxy」のタイトル曲で、レコーディングではビル・コナーズがギターを演奏していました。

プレイスタイル

エレキベース

スタンリーのプレイスタイルの特徴といえば、やはり2フィンガー奏法による速弾きが挙げられるでしょう。そのスピードはベースとは思えないほど速く、ギタリストのジェフ・ベックと競演した際にはジェフよりスタンリーのほうが速かったという噂も出たほどです。反面音使いはシンプルで、ペンタトニックスケールを中心としたフレーズが多用されます。また、4~6音程度の短い音形を繰り返すフレーズが多いのも、スタンリーの速弾きフレーズの特徴です。


Stanley Clarke – Goodbye Pork Pie Hat – 8/10/2003 – Newport Jazz Festival(Official)
「If This Bass Could Only Talk」に収録されている、「Good Bye Pork Pie Hat」のライブ映像です。ベースソロで素晴らしい速弾きを見せてくれます。この曲は、ジャズベーシストのチャールズ・ミンガスの曲で、マーカス・ミラーが自身のアルバムで取り上げたり、シンガーソングライターのジョニ・ミッチェルがカバーしたバックではジャコ・パストリアスがベースを弾いているなど、色々なベーシストと何かと縁が深い楽曲です。

コード弾きの多用も特徴のひとつといえるでしょう。スタンリーのコード弾きは右手のフォームが独特で、握った状態の親指以外の4本の指を一気に開いてピッキングしています。またスラップもバッキング・ソロのどちらでも多用されています。親指のサムの連打が多いことが特徴です。


The Stanley Clarke Band “School Days” @Jazz_in_Marciac 3 Aout 2017
スタンリーの代表曲「School Days」の2017年のライブ映像です。冒頭から独特の右手のフォームでのコード弾きが確認できます。5:25あたりからスラップも見ることができます。

ウッドベース

オーソドックスなジャズのウォーキングベースなどでも、もちろん素晴らしい演奏が聴けますが、本人が「アコースティックベース(ウッドベース)は私にとって一番自分自身を感じさせてくれる楽器」と語っており、この言葉を再現したような無伴奏によるソロでのパフォーマンスがスタンリーのウッドベースでの特徴的なスタイルといえます。この演奏スタイル時に見られるテクニックは、早弾き・コードのかき鳴らし・ボディーを叩いてのパーカッシブなプレイなど通常のウッドベースのいプレイには見られないものも多く、スタンリーのアイディアの豊富さがうかがえます。


Stanley Clarke – Bass Folk Song – 8/10/2003 – Newport Jazz Festival(Official)
ほぼベース1本によるソロパフォーマンスです。冒頭に見れるコードのかき鳴らしやボディーを叩く奏法などはフラメンコギターで見られる奏法に似ており、スタンリーがその奏法を研究してウッドベースに取り入れていると考えられます。

アルコ奏法(弓奏)も多用され、その音色は非常に美しいものとなっています。これは幼少時にヴァイオリンやチェロを学びクラシックのテクニックをしっかり見につけていた証拠といえるでしょう。


“No Mystery”:Chick & Stanley Clarke Play Return to Forever Classic as Acoustic Duet
リターン・トゥー・フォーエバーの「No Mystery」をチック・コリアとのデュオにより演奏してます。2:20あたりから美しい音色のアルコによるメロディが聴けます。

使用機材

ベース

Alembic Stanley Clarke Signature Bass ALEMBIC SCSB4 Stanley Clarke Signature Deluxe

スタンリーといえばやはりアレンビックの4弦ベースでしょう。1973年に初めて手にして以来、現在に至るまで使い続けており、スタンリーのトレードマークともいえる楽器になっています。このアレンビックは、世界初のアクティブサーキット内蔵のエレキベースとして知られており、フロント・リアそれぞれ独立したトーンつまみなど様々なコントロールが搭載されています。それ故、好みのセッティングを見つけ出すのが難しいですが、使いこなせば多彩な音色を得ることができます。ネックはショートスケールが採用されており、ボディシェイプも比較的小ぶりなものとなっています。大柄なスタンリーがこの楽器を持つと、まるでギターを持っているかのように見えます。
また、スタンリーは、通常のべースより1オクターブ高くチューニングされた「ピッコロベース」や、A-D-G-Cのチューニングの「テナーベース」を弾くこともあり、これらもアレンビックの楽器を使用することが多いようです。

ウッドベースに関しては、19歳のときにフィラデルフィアの路上で300ドルで手に入れた、と本人が語っている、120年前のドイツ製の楽器をメインに使用しています。がツアーなどでは、この楽器をコピーして作ったオリジナルモデルを使用しているようです。

エフェクター

EBS Stanley Clarke Signature WahEBS Stanley Clarke Signature Wah

現在はDynaverb(リバーブ)やBASSIQ(エンベロープフィルター)など、EBS製のものを中心に使用しており、とくにワウペダルは本人の名を冠したシグネチャーモデルが作られています。このペダルは、フットスイッチによる切り替えを、ワウ-バイパスとワウ-ボリュームペダルの2種類から選択できるのが大きな特徴となっています。