スクエアプッシャーことトーマス・ジェンキンソンはテクノ/ドラムン・ベース系のミュージシャンとして有名だが、同時に超一流のベーシストでもある。緻密にプログラミングされた超高速のブレイクビーツにジャコ・パストリアスを彷彿とさせるテクニカルなベースの生演奏を融合させた斬新なスタイルで旋風を巻き起こした初期の2作「Feed Me Weird Things」「Hard Normal Daddy」は、世界中のエレクトロニック・ミュージック・ファン、そして早耳のベーシスト達を驚愕させ、一躍時代の寵児となった。
デビュー作の冒頭を飾る「Squarepusher Theme」でのチープな機材で練り上げたジャジーなブレイクビーツの上を縦横無尽に弾きまくるベース、2ndに収録の「coopers world」のバック・トラックとのユニゾンから流れ込む高速パッセージは、まさに現代のジャコパスの名が相応しいプレイである。
「Music Is Rotted One Note」では、打ち込みではなく全て生演奏によるスクエアプッシャー流ジャズ・アルバムを制作、その懐の深さとアイデアでリスナー達をいい意味で裏切り、もはやテクノ/ドラムン・ベースというエレクトロニック・ミュージックの範疇で語ることの出来ない存在となっていく。
2004年発表の「Ultravisitor」は高速ドリルン・ベースとジャジーかつメロディアスなベース・プレイを絶妙なバランスで配置し、ベーシストとしてのスクエアプッシャーの存在感を改めて世に知らしめた傑作となった。
2012年の「Ufabulum」は楽曲がよりキャッチーになりつつも攻撃的な側面は失われておらず、ライヴにおけるLEDを多用した斬新なビジュアル・コンセプトと相まってスクエアプッシャーそのものをネクスト・レベルに押し上げる作品となった。
初期はフェンダー・ジャズ・ベースのフレットレスと、Ibanez Roadstar II やミュージックマン・スティングレイ・ベースを使用。現在はルシアーという6弦ベースを使用している。打ち込み機材はAKAI S6000や、BOSS DR-660、ROLAND TR-707など多岐に渡る。
名盤:Solo Electric Bass 1
純粋にベーシストとしてのトーマス・ジェンキンソンのプレイに酔いしれたければ、2009年の「Solo Electric Bass 1」がオススメ。ベース1本で演奏される美しいメロディ、時折織り込まれる速弾き、アルペジオやハーモニクスなどもはやギターかと思ってしまうようなプレイをサラリとこなすスキルの高さは超人レベル。エレクトロ文脈で語られることの多いスクエアプッシャーのベースへの愛情と本気度が伺える1枚であり、ベーシストにとっては畏怖すべきテクニックの宝庫と言える21世紀のベース・バイブル。