ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)

ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)はイギリス南西部ウェールズ出身のベーシストです。スタジオミュージシャンとして多くのアーティストと競演しており、特に、ジョン・メイヤートリオやディアンジェロ、ジョン・エントウィッスル亡き後のザ・フーの活動などで知られています。

【使用機材】Fender Pino Palladino Signature Precision Bass
【所属バンド】 John Mayer Trio

biography

1957年10月17日ウェールズの首都カーディフで、イタリア出身の父親とウェールズ出身の母親の間に生まれます。幼い頃からモータウンやジャズに興味を持ち、14才でエレキギターを弾き始め、17才でベースに転向、この翌年には初めてのフレットレスベースを手にします。

1980~90年代

1980年ごろよりスタジオミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせ、83年にリリースされたイギリスのシンガーソングライター「ポール・ヤング」のシングル「Wherever I Lay My Hat」での演奏で注目を集めます。さらに85年にリリースされたポール・ヤングのアルバム「The Secret of Association」へも全面参加し、シングルカットされ全米1位を記録した楽曲「Everytime You Go Away」でのメロディアスなフレットレスベースの演奏で世界的に知られるようになります。


Paul Young – Wherever I Lay My Hat (That’s My Home)
ポール・ヤングの1stソロアルバム「No Parlez」に収録され、ピノが注目を集めるきっかけとなった楽曲です。マーヴィン・ゲイの楽曲のカバーで全英チャート1位を記録するヒットとなりました。

80年代後半から90年代にかけてはエルトン・ジョン、フィル・コリンズ、エリック・クラプトン、スティーブ・ルカサー、ジェフ・ベックなどの世界的アーティストと競演し、スタジオミュージシャンとしての地位をより揺るぎないものとしていきます。

2000年代

2000年にはアメリカのソウルシンガー「D’angelo」のセカンドアルバム「voodoo」へ参加します。このアルバムでの、ドラマーの「クエストラヴ」とピノによる極端にレイドバックしたグルーヴは話題となりました。この作品への参加を皮切りにピノは、エリカ・バドゥの「Mama’s Gun」、voodooにも参加しているジャズトランペットプレイヤー、ロイ・ハーグローブによるヒップ・ホップユニット「RH Factor」の「Hard Groove」など、いわゆるネオ・ソウルと呼ばれるジャンルの作品に多数参加していきます。


D’Angelo – Send It On
voodooに収録されている楽曲「Send It On 」のライブ映像です。このライブもピノとクエストラヴによるリズムセクションとなっています。

2002年6月27日、1960年代から活躍するイギリスの老舗ロックバンド「The Who」のベーシスト「ジョン・エントウィッスル」が急死します。このときバンドは全米ツアーを翌日に控えており、代役のベーシストとして急遽ピノを起用し、7月1日よりツアーを開始させます。ピノはこのツアー後もThe Whoのライブや、2006年のアルバム「Endless Wire」のレコーディングにも参加しています。


The Who – Baba O’Riley
ピノも参加してる2015年のライブ映像です。この楽曲は1971年のアルバムに収録されており、The Whoのライブでは定番曲となっています。

ジョン・メイヤー・トリオ「TRY!」ジョン・メイヤー・トリオ「TRY!」

2005年には、現代の三大ギタリストの一人といわれ、このときすでにグラミー受賞者となっていたギタリスト/ボーカリストのジョン・メイヤーを中心に、ドラマーのスティーブ・ジョーダンの3人で「ジョン・メイヤー・トリオ」を結成し、ライブアルバム「Try! John Mayer Trio Live in Concert」をリリースします。この作品は受賞こそ逃したもののグラミー賞のベストロックアルバムにノミネートされるヒット作品となりました。ジョン・メイヤートリオ名義でのアルバムはこの1枚のみですが、翌2006年のジョン・メイヤー名義のアルバム「Continuum」でもスティーブ・ジョーダンがプロデュースを担当し、ピノもほとんどの楽曲のベースを担当するなど、3人はこの後もたびたび競演しています。


John Mayer – Daughters (Live at the GRAMMYs)
アルバム「Try!」に収録された楽曲のライブ映像です。この楽曲はもともとはジョン・メイヤーの2003年のアルバム「Heavier Things」に収録されており、グラミー賞の最優秀楽曲賞を受賞しました。このライブはその受賞式でのもので、 John Mayer Trioの3人で演奏されています。

2009年、フュージョンキーボード奏者フィリップ・セスのリーダーアルバム「At World Edge」にドラマーのサイモン・フィリップスとともに参加し、同年にフィリップ・セス・トリオとして来日公演も果たします。この模様はライブ録音され、翌10年にPhilippe Saisse/Simon Phillips/Pino Palladinoそれぞれの頭文字から名づけられたPSPというユニット名義でリリースされました。このトリオはこの後も不定期ながらライブ活動を行っています。


PSP DVD Vigilante QT
PSPの2011年のライブ映像です。11/8という複雑な変拍子が基調となった曲ですが、それを感じさせないスムーズな演奏です。

2014年には、ディアンジェロの「voodoo」以来14年ぶりのアルバム「Black Messiah」がリリースされ世界的に話題となりました。こちらの作品にもピノは全面参加しています。

プレイスタイル

ピノ・パラディーノのプレイには大きな特徴が3つあります。

メロディアスなフレージング

1つめはメロディアスなフレージングです。特に、80~90年代のフレットレスベースを中心に弾いていたころの中~高音域を使った歌うようなフレーズが印象的です。このような演奏は、前述のポール・ヤングの諸作品をはじめ、イギリスの女性シンガー「ジュリア・フォーダム」の89年の「Porcelain」や91年の「Swept」などのアルバム、坂本龍一の89年のアルバム「BEAUTY」に収録されている「Rose」などで聴くことができます。


Paul Young – Everytime You Go Away (Official Video)
「Everytime You Go Away 」のビデオクリップです。この楽曲はもともとダリル・ホール&ジョン・オーツが1981年に発表した楽曲です。このポール・ヤングのバージョンでのピノのフレットレスの演奏は、歌のバックにおけるフレットレスベースの演奏の理想形の1つといってもいいでしょう。

モタって聴こえるほど後ノリの深いグルーヴ

D'Angelo VoodooD’Angelo Voodoo

2つめはそのグルーヴ感です。The Whoのトラディショナルなロック、 ジョン・メイヤー・トリオのコンテンポラリーなブルース・ロック、PSPの変拍子も交えた複雑なフュージョンなど、あらゆるジャンルにおいて,それぞれに対する的確なプレイをし、楽曲のグルーヴをより深いものにしていきます。その中でも特筆すべきは、やはりディアンジェロの作品でのグルーヴ感でしょう。モタって聴こえるほど後ノリの深いグルーヴで、「voodoo」の録音中にディアンジェロからこのような演奏を指示されたときは、ピノやドラムのクエストラヴも戸惑うほど革新的なものでした。しかし、今ではこの作品でのグルーヴ感は、現代ブラックミュージックのエポックメイキング的なものになっています。


Questlove and D’Angelo SuperJam | Ep.1: Origins | Bonnaroo365
ディアンジェロのバンドでのボナルーフェスティバルでの演奏です。前半部分はバンドメンバーのインタビューとなっており、演奏は4:40あたりから始まります。ピノとクエストラヴの強力なグルーヴを聴くことができます。

豊富なフィルインのアイディア

3つめは多彩なフィルインです。メロディの間を縫って入るフィルインのアイディアが豊富で、かついわゆる「おいしい」フレーズが多いため、コピーしてみると参考になるのではないでしょうか。とくにダブルストップ(2つの音を同時に弾く奏法)を使う場面が多く見られ、ピノのトレードマークのひとつとなっています。


John Mayer – Who Did You Think I Was (Live at the Nokia Theatre – Video – PCM Stereo)
John Mayer Trio名義でのアルバム「Try!」にも収録された、ジョン・メイヤーの代表曲の1つです。ピノの多彩なフィルインが堪能できます。1:37あたりではダブルストップを用いています。

使用機材

1980~90年代頃は、1979年製の.ミュージックマン・スティングレイのフレットラインのないフレットレスベースをメインベースとして使っていました。また、この楽器を使う時にはかなりの頻度でオクターバー・ペダル「BOSS OC-2」が使われており、これによりシンセベースに似た重厚なフレットレスサウンドを生み出していました。

Pino Palladino Signature Precision Bass Pino Palladino Signature Precision Bass

それ以降は、赤いボディとピックガードが印象的な63年製のフェンダー・プレシジョンベースをメインとして使っています。このベースはアルダーボディ、メイプルネック、ローズ指板という仕様になっていおり、これをほぼ同仕様でコピーしたモデルがフェンダー・カスタムショップより「Pino Palladino Signature Precision Bass」として発売されています。