ミシェル・ンデゲオチェロ

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【本名】ミシェル・ジョンソン
【生年月日】1968年8月29日
【出身】ドイツ→アメリカ ワシントンDC
【使用ベース】 : Fender Jazz Bass
【所属バンド】 : ミシェル・ンデゲオチェロ

ミシェル・ンデゲオチェロことミシェル・ジョンソン。デビュー当時、粘り気のあるグルーヴィーなラインとキレのあるスラップで一躍ベース・シーンに躍り出た彼女のプレイは年々進化を見せ、今では音数を削ぎ落とした一音一音に魂を込めるような重みと深みを感じさせる。
もともとベースのみならず、ヴォーカル・ギター・ドラム・キーボードといった楽器をこなすマルチ・ミュージシャンである彼女は、近年ではサポート・ベーシストを従えて本人は歌に徹することも多い。
ミシェルのスポークン・ワードを取り入れた独特のヴォーカル・スタイルと楽曲のクオリティはデビューした1990年代前半では異彩を放っており、メジャー・レーベル各社が争奪戦を繰り広げることとなる。そしてミシェルが自身の活動の場として選んだのは、マドンナのレーベル、マーヴェリックであった。

Works

プラテーション・ララバイ~ピース・ビヨンド・パッション

1993年、満を持して発表されたデビュー作「プラテーション・ララバイ」は、ミシェルの躍動感溢れるファンキーなプレイとヴォーカルとしてのスキルの高さ、そしてコンポーザーとしての実力をいかんなく発揮した素晴らしい作品。「アイム・ディギン・ユー」や「ユア・ボーイフレンド」のミュートの効いたサウンドで聴かせるタイトかつ流れるようなリフに乗って、時に伸びやかに、時にささやくように歌う彼女の存在感は、彼女が既に大物であることを十分に予感させるものであった。
続く2ndアルバム「ピース・ビヨンド・パッション」の冒頭「ザ・ウーム」で聴かせる歌うようなラインから2曲目の「ザ・ウェイ」でのシンプルながらもオクターブを効果的に使用したリフへの流れは鳥肌モノ。ブリッジでのスラッピングも派手さよりもノリとグルーヴを重視した美しいプレイである。また「ファゴット~レビ記」では同性愛差別について歌うなど、社会的メッセージも非常に強い。

ちなみに彼女は黒人であると同時にバイセクシャルでもあり、そのバックボーンが歌詞にも強く影響しているのだろう。

ビター~コンフォート・ウーマン

前2作がミシェルのファンキーな要素を色濃く反映させた作品という意味で統一感を持っていたのに対し、1999年の「ビター」以降は作品ごとに作風を大きく変化させている。
「ビター」ではベース主体のグルーヴィな曲調は影を潜め、アコースティックに近いサウンドで彼女自身の歌を全面に押し出した作品になっている。ベースはシンプルに歌を支えるスタイルで歌伴に徹している。90年代の作品ではあるが、むしろ近年の彼女の作風に一番近い作品と言える。
続く「クッキー:アンソロポリジカル・ミックステープ」では一転して低音に重心を据えたダブ要素の強いサウンドになっており、ヒップホップ的なベース・ラインの宝庫となっている。5枚目の「コンフォート・ウーマン」はそれまでのそれまでの4作品の要素をバランスよくミックスした作風で、粘り気のあるベース・ラインやクールな歌声を十二分に楽しめる作品となっている。

夢の男~Pour Une Ame Souveraine

2007年の「夢の男」ではロック的なエッセンスが強くなり「ザ・スローガナー」ではルート弾きで曲をドライヴさせながら引っ張っていくという今までにない側面もみせてくれる。この頃からライヴではサポート・ベーシストを従え、自身は歌に徹する機会が多くなったのは彼女のベースのファンとしては寂しいところである。が、ほんの数曲だけ弾く彼女のベースはまさに神がかり的なグルーヴで、観客の心を捉えて離さない。


夢の男:Youtube動画

続く「デビルズ・ヘイロー」もアッパーな曲を織り交ぜつつ、静と動を絶妙なコントラストで展開している。2011年に発表された「ウェザー」はミドル・テンポな歌モノが中心ではあるが、ビター同様歌伴ベースとして学ぶところが非常に多い作品である。

コラボレーション

ミシェル・ンデゲオチェロの名前を一気にメジャーにしたのは1994年にジョン・メレンキャンプとのコラボレートで発表されたヴァン・モリソンのカヴァー「ワイルド・ナイト」。リズミックなリフで曲を牽引しながらジョン・メレンキャンプとデュエットするミシェルの姿は世界中の音楽ファンの目に留まり、認知度を大きく広げるきっかけとなった。

2005年にはミシェル・ンデゲオチェロ・プレゼンツ・ザ・スピリット・ミュージック・ジャミア名義でジャズ・アルバム「ザ・スピリット・ミュージック・ジャミア」を発表。ジャック・ディジョネット(Dr)、ケニー・ギャレット(Sax)といった総勢25名のミュージシャンとのコラボレートを実現させたミシェルの人脈の幅広さが伺える。ミシェルがジャズ・シーンでも一流であるという音楽性の幅広さを証明してみせた一枚。
2008年にはマイロン(Vo,Key)のプロジェクト、マイロン・ザ・ワークスにロバート・グラスパー(Key)、チャールズ・ヘインズ(Dr)と共に参加。メンバーからも想像できる極上のソウル・アルバムの一翼を担っている。

名盤:プラテーション・ララバイ

Plantation Lullabies Plantation Lullabies
ベーシスト的にはやはりまずこの1枚。まさに衝撃のデビュー作となった「プラテーション・ララバイ」。「ユア・ボーイフレンド」のハネたリフは知らず知らずのうちに体を動かしてしまうグルーヴが宿っている。「ステップ・イントゥ・ザ・プロジェクツ」でのタメの効いたグルーヴと時折聴かせるファンキーフィルとの対比も素晴らしい。
前述したようなサステインの少ないサウンドで奏でられるラインの数々はその「間」にさえもグルーヴが宿っている。これが1作目とは思えない完成度の高さを誇る傑作。

プレイスタイル

ミシェルのプレイの特徴は、まさにアフロ・アメリカンといった感じの重く強靭なグルーヴ感だろう。このグルーヴは、アタックが強めのスタッカート気味のピッキングを基調としながらも延ばす音はきっちり延ばすなどの音価(音の長さ)の絶妙なコントロールや、休符の巧みな使い方により得られている。また左手のトリル(細かいハンマリング・プリングの繰り返し)や、スライドビブラート(隣合ったフレットを素早いスライドによって行き来するビブラート)などのテクニックが手癖のように多用され、これにより彼女の独創的なベースラインがより生き生きとしたものとなっている。スラップのテクニックもオーソドックスなものだが、サム中心のフレージングとミドルの強調された太い音色が特徴的だ。


Chaka Khan ft. Meshell Ndegeocello – Never Miss The Water
チャカ・カーンの1996年の楽曲。ベストアルバム「Epiphany」に新曲として収録され、のちにシングルカットもされた。太い音色、音価のコントロールによるメリハリの利いたリズムなど、これぞミッシェル・ンデゲオチェロといったプレイになっている。特に、1:53あたりからの、16分ウラを強調しつつも鋭角的にならずゆったりとした重いノリになっているベースラインは彼女ならではだろう。ちなみにこの部分のラップもミシェルによるものだ。

使用機材

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長年に渡りフェンダー・ジャズ・ベースを愛用。弦をあえて張り替えずにサステインの少ない丸みを帯びたサウンドを特徴としている。近年では Reverend のセミ・ホロウ・ベース Dub King を使用している。アンプは Fender Twin Riverb のヘッドをプリアンプとして使用し、Ampeg SVT-VRで出力している。