マット・セイファー

【使用ベース】 : Fender Precision Bass
【所属バンド】 : ザ・ラプチャー

ポスト・パンクの申し子

00年代初頭に巻き起こったポスト・パンク・リバイバルの中心的バンドの1つであるザ・ラプチャーでダンサブルなエッセンスを牽引していたのがベーシストのマット・セイファーである。ハイの効いた金属的なギター、スクエアなリズムを刻むドラム、曲を彩るサックスやパーカッションの中で、バンドの要となるグルーヴィなフレージングでパンキッシュなサウンドにダンス・ロックの要素を盛り込んでいた。脱退までに参加したアルバムはわずか2枚でありながら、シーンに与えた影響は大きい。

LCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーとUnkleのティム・ゴールズワージーによるレーベル、DFAレコーズから02年にリリースされたシングル「ハウス・オブ・ジェラス・ラバーズ」。シンプルな4つ打ち、印象的に鳴り続けるカウベル、エキセントリックなギターとヴォーカルの裏でひたすらベースがハネたグルーヴでリフを奏でるこの曲に、早耳の音楽リスナーはこぞって夢中になり、ザ・ラプチャーは一躍ポスト・パンク・リバイバルの寵児となった。

エコーズ〜ピース・オブ・ザ・ピープル・オブ・ラヴ

「ハウス・オブ・ジェラス・ラバーズ」のヒットの追い風の中、DFAプロデュースのもと03年にリリースされたデビュー・アルバムが「エコーズ」。不穏なピアノのフレーズと凶暴なシンセ・ベースで幕を開ける「オリオ」。シンプルなリフによるリズムの隙間が絶妙なリズムを生み出している「アイ・ニード・ユア・ラヴ」、そしてもちろん「ハウス・オブ・ジェラス・ラバーズ」。00年代ダンス・ロックの金字塔であり、マイルストーンともなるこのアルバムはザ・ラプチャーを世界的バンドたらしめ、ベーシストたちはマット・セイファーに注目し始めることとなった。

06年に2ndとなる「ピース・オブ・ザ・ピープル・オブ・ラヴ」をリリース。ダンス的なグルーヴはそのままにはメロディは一層強化され、冒頭を飾る「ドン・ゴン・ドゥ・イット」から強力なハーモニーを伴うキラー・チューンを展開。「ゲット・マイ・セルフ・イット」、「ザ・デビル」といった歌えて踊れるナンバーが並ぶ中、マット・セイファーの存在感が際立つのが「ウー!オールライト、イエー」。タイトにリズムを刻みながらヴォーカル、ラップまで披露。特にメインのリフはシンプルながら曲の骨格を成す完成度の高さ。ベーシストなら一聴の価値がある1曲だと言えよう。

残念ながらマット・セイファーは09年にザ・ラプチャーを脱退。バンドはその後も活動を続け、09年に「イン・ザ・グレース・オブ・ユア・ラヴ」を発表するものの14年に解散。やはりマット・セイファーの不在は大きかったのではないだろうか。それほどザ・ラプチャーの中で輝きを放っているメンバーであった。

マット・セイファーの使用機材

主な使用ベースは フェンダー・プレシジョン・ベース。ライヴ映像からはAmpegのベース・アンプを使用していることが見てとれる。Precision Bassのファットなサウンドが、ギャング・オブ・フォーのような無機質さを醸し出すギターや打ち込みのようなドラムと対になり、ザ・ラプチャーの音に人間的なグルーヴを持ち込んでいると言える。また、隙間を多用するマットのベース・プレイ・スタイルとFender Precision Bassの図太く暖かみのあるサウンドの相性もよく、1音1音の存在感をより大きくする事に一役買っている。

名盤:エコーズ

やはりダンス・ロックのみならず、00年代のロック・シーン全体に大きな衝撃を与えたデビュー作を名盤として推したい。前述した「ハウス・オブ・ジェラス・ラバーズ」と、それに続くタイトル・トラック「エコーズ」のリフはベーシストならついベースを手に取って弾いてしまうだろう。「キリング」のシンプルでありながら呪術的な魔力を秘めたリフも、永遠に引き続けていたくなるほど魅力的だ。ロック然としたプレイ・スタイルから一歩踏み出したい時のヒントが詰まった名盤である。

エコーズを…