マーク・キング(Mark King)はイングランド・ワイト島出身のベーシストです。ポップ・フュージョンバンド「Level 42」のリーダーでヴォーカルも担当しています。スラップ奏法を得意としており、16分音符を多用した非常に音数の多いフレージングから、「マシンガンスラップ」とも呼ばれます。
【使用機材】Status Graphite king bass
【所属バンド】Level 42
1958年10月20日、イングランド・ワイト島で生まれます。1968~70年にワイト島で行われた大規模な音楽フェスティバルがきっかけで音楽に興味を持ち始め、中学時代の音楽教師の勧めでドラムを演奏するようになります。
1977年、19歳でロンドンに移り住み、1979年にマークとマイク・リンダップを中心として、フィリップ・グールド、ブーン・グールドの兄弟を加えた4人でLevel 42を結成します。この頃はまだマークはドラムを演奏していましたが、程なくしてバンドにベースが必要となり、ベーシストに転向します。
1980年、Level 42はインディーズレーベルよりアルバムを1枚リリースし、翌年の81年にはポリドールよりアルバム「Level 42(アーバン・ファッシネーション)」をリリースし、ベーシスト転向から僅か2年ほどでメジャーデビューを果たします。
TOPPOP:Level 42 – Starchild
デビューアルバム「Level 42」に収録された楽曲で、シングルとしてもリリースされています。82年の映像なので、この時点でもマークのベース暦は3年ほどということになります。
1982年にはアルバム「The Pursuit of Accidents(パーシュート・オブ・アクシデンツ)」をリリースします。このころまでのLevel 42のサウンドは硬派なファンク・フュージョンというイメージでしたが、アース・ウィンド&ファイアのベーシストのヴァーダイン・ホワイトと当時同バンドのキーボーディストだったラリー・ダンの2人をプロデューサーとした83年の「Standing in the Light(サン・ゴーズ・ダウン)」や、ビートルズなども手がけたケン・スコットをプロデューサーとした84年の「True Colours(トゥルー・カラーズ)」から次第にポップよりのサウンドへシフトし始めます。売り上げでも「Standing in the Light」は全英9位、「True Colours」は全英14位を記録し、Level 42の名前はよく知られるようになってきます。
また、同じ1984年にマークは始めてのソロアルバム「Influences」もリリースしています。
Level 42 – The Sun Goes Down(Sirens Tour Live 5.9.2015)
「Standing in the Light」に収録された楽曲です。シングルカットされ全英チャート10位を記録しバンドがブレイクした楽曲といわれています。この曲ではマイク・リンダップがメインヴォーカルを務めています。
バンドのポップサウンドへの転換は、1985年のアルバム「World Machine(ワールド・マシン)」でもさらに推し進められました。このアルバムはLevel 42のメンバー自身と、第5のメンバーともいわれたウォーリー・バダロウの共同プロデュースによる作品で、全英3位・全米18位という成功を収めました。また、同年には2枚組ライブアルバム「A Physical Presence」もリリースされました。さらに87年には、引き続きバンドメンバーとウォーリー・バダロウのプロデュースでアルバム「Running in the Family(ランニング・イン・ザ・ファミリー)」をリリース。全英2位を記録するほか、ヨーロッパ各国のチャートで軒並みトップ5入りを果たし、バンドは最盛期を迎えます。また「World Machine」に収録された「Something About You」、「Running in the Family」に収録された「Lessons in Love」のそれぞれのシングル曲は、どちらも大ヒットしバンドを代表する楽曲となっています。
Level 42 – Lessons in Love(30th Anniversary World Tour 22.10.2010)
「Lessons in Love」の2010年のライブ映像です。この曲は、南アフリカのチャートでも1位を記録するなど、ヨーロッパ各地のみならず世界的なヒットとなりました。
Level 42の世界的成功をもたらしたサウンドのポップ化ですが、グールド兄弟はこの傾向をあまり好ましく思っておらず、「Running in the Family」のリリース後に2人はバンドからの脱退を表明します。残されたマークとリンダップは、ギターのアラン・ホールズワース、ドラムのゲイリー・ハズバンドらを迎え88年に「Starring at the Sun(ステアリング・アット・ザ・サン)」、91年には「Forever Now(フォーエバー・ナウ)」というアルバムをリリースします。この2作品は本国イギリスではそれぞれ2位と3位を記録し依然高い人気を誇っていましたが、世界的に見た売り上げは次第に低下していきます。フィリップ・グールドが復帰した94年の「Forever Now(フォーエバー・ナウ)」も商業的な成功を収めることはできず、マークとリンダップのソロ活動への志向もありLevel 42は解散することなります。
Level 42 – Heaven In My Hands(Live in Holland 2009)OFFICIAL
アルバム「Starring at the Sun」の1曲目に収録された楽曲で、シングルカットもされています。このアルバム発売前に脱退したグールド兄弟ですが、楽曲制作時にはまだバンドに在籍していたようで、この曲もマークとブーン・グールドの共作となっています。
マークは1996年頃から本格的なソロ活動をスタートさせ、98年は2枚目のソロアルバム「One Man」をリリースします。また翌99年には、これまでの活動で未発表となっていた曲を収録したアルバム「Trash」をリリースします。この作品はレコード会社を介さず、マーク自らがパソコンとプリンターでCDを作成するという、まさに自主制作という形で作られました。この後も同じ手法で数枚のライブアルバムを制作しています。
2002年、これまでは自身の名義で活動していたマークが、引き続きソロプロジェクトという扱いではあるものの、Level 42という名義での活動を再開させます。そして2006年にはマイク・リンダップがバンドに復帰し12年ぶりとなるアルバム「Retroglide」をリリース。本格的な再始動を果たします。さらに2010年からはほぼ毎年来日公演を行い、2013年にはアルバム「Sirens」をリリースなど積極的な活動を行っています。
Level 42 – Build Myself A Rocket(Sirens Tour Live 5.9.2015)
アルバム「Sirens」に収録された楽曲のライブ映像。再結成後のLevel 42に正式メンバーとして加入しているサックス奏者のショーン・フリーマンを中心としたホーンセクションがフューチャーされています。
マーク・キングといえば真っ先に思いつくのは、やはり「マシンガンスラップ」とも呼ばれる、音数の多い16分音符を埋め尽くすようなフレーズのスラップでしょう。ビクター・ウッテンなどに代表される近年のテクニカルスラッパーの主流となっているサムのアップやロータリーは用いず、右手のサムダウンとプル、左手のゴーストノートとハンマリングのみでフレーズを構築させています。特にサムダウンの連打のスピードは脅威的で、あまりの音数の多さからライブ中に指を痛めた経験もあるようで、それ以来右手親指にテーピングがされており、彼のトレードマークにもなっています。またベースソロ等ではサムダウン・左手のゴーストノート・プルの3音をひと塊とした、3連符や6連符のフレーズが多用されます。そして、なによりすごいのは、これらの難易度の非常に高いフレーズを歌いながら弾いてしまうことでしょう。
Level42 – Bass Solo + Love Game – Live at Java Jazz Festival 2007
「Love Games」はデビューアルバムに収録されたLevel 42の初期の代表曲です。冒頭のフリーのベースソロでは6連符などを交えた、18番の高速スラップフレーズが堪能できます。本編での歌いながらも完璧なリズムで演奏されるベースラインも驚異的です。
また、2フィンガー奏法もフォーム等はオーソドックスですがスピードや精度は素晴らしく、ソロではハーモニクス等も織り交ぜたメロディアスなフレーズも聴くことができます。マークといえば、どうしてもスラップというイメージになってしまいますが、ボーカリスト・コンポーザーなどもこなす総合的なミュージシャンとして希有な才能の持ち主です。
Level 42 – The Chinese Way(Sirens Tour Live 5.9.2015)
アルバム「The Pursuit of Accidents」に収録された楽曲のライブ映像です。ジャコ・パストリアスを彷彿とさせるような2フィンガーでのグルーヴィーなベースライン、ダブルストップ、コーラスと絡むようなメロディアスなフレーズ、さらにはスラップなどマークの素晴らしいベースプレイが堪能できます。
かつてはイギリスのJaydeeというメーカーのベースや、アメリカの老舗Alembicのものを中心に使用していましたが、現在では主に「Status Graphite(ステイタス・グラファイト)」というメーカーのシグネチャーモデルを使用しています。
「Status Graphite」は1981年に創業されたベースブランドで、その名の通りボディやネックにグラファイトを用いた先鋭的な仕様や、ヘッド部分のない独特なデザインで知られています。
マークのシグネイチャーモデルである「King Bass」は、見かけ上でもグラファイトを使用していることの分かる独特のボディの質感が特徴的ですが、材全てがグラファイトという訳ではなく、木材の表面にグラファイトを圧着させ覆っているのです。これにより鋭いアタック感と耐久性を兼ね備えることを可能にしています。
またヘッド部分(実際は前述のようにヘッドがないので、通常のベースでヘッドがある部分)は、「BENDWELL仕様」という独特の仕様となっています。この仕様により、ストリングベンドと呼ばれる、弦を押し下げることによりチョーキングと似た音程変化を得られる奏法を容易に行うことが可能となります。また、ネックの見かけの長さは一般的なロングスケール(34インチ)ですが、BENDWELL仕様が搭載された部分を差し引いた、実質的なスケールはミディアムスケール(32インチ)となっています。
アクティブサーキットはオリジナルのものが搭載されており、コントロールはマスターボリューム、ピックアップバランサーとベース/ミドル/トレブルの3バンドEQとなっています。EQはベースとトレブルはカットとブーストのみですが、ミドルには帯域を指定できるフリケンシーノブと、その帯域をカット/ブーストできるミニスイッチが搭載されており、スラップ向けのドンシャリサウンドや、2フィンガー向けのミドルを強調したサウンドを瞬時に切り替えることができます。
指板のポジションマークにはLEDが搭載されており、これにより暗いステージでの視認性が上がるだけではなく、ステージの雰囲気を作る演出としても使われます。
弦はロトサウンドの「funkmaster」を使用しており、ゲージは1弦から30-50-70-90というかなり細めのセット(もっとも一般的なのは45-65-80-100あたり)で、この弦の使用が独特の少し軽めの音色にも影響していると考えられます。
Level 42 “Something about You” Live at Java Jazz Festival 2016
「World Machine」に収録されたLevel 42の代表曲「Something about You」のライブ映像です。グラファイトのボディ、LEDのポジションマーク、ヘッドレスのネックなどking bassの独特の仕様を見ることができます。
アンプやエフェクターは現在「TC Electronic」のものを中心に使用しており、ビブラート機能を持った「SHAKER」、リバーブの「HALL OF FAME」、フランジャーの「VORTEX」、ディレイとルーパーの機能を兼ね備えた「FLASHBACK」、コーラスの「CORONA」などを仕様しています。
TC Electronic SHAKER VIBRATO
TC Electronic HALL OF FAME REVERB
TC Electronic VORTEX FLANGER
TC Electronic FLASHBACK DELAY & LOOPER
TC Electronic CORONA CHORUS
Interview with Mark King of Level 42
TC Electronicによるマーク・キングへのインタビュー動画です。前半は奏法解説、後半はエフェクターの解説となっています。英語を理解できなくてもツマミのセッティング等参考になるのではないでしょうか。TC Electronicのエフェクターの他にもMXRのオートワウ「BASS AUTO Q」がセッティングされていますね。また3:37あたりから、ネック先端部のBENDWELL仕様によりビブラートをかけているのが確認できます。