ジョン・ウェットン

ウィッシュ・ボーン・アッシュやモーガル・スラッシュなど数多くのバンドで活動してきたジョン・ウェットンであるが、やはりそのキャリアの中で代表的なものと言えばキング・クリムゾン、エイジア、そしてUKだろう。とりわけキング・クリムゾンではメンバー・チェンジの激しいバンドにもかかわらず3枚のアルバムに参加、中期の黄金時代を支える重要メンバーとしてバンドに貢献した。歪んだ音色で奏でられるベース・サウンドはジョン・ウェットンの代名詞でもある。ヴォーカリストとしても一流で、数々のバンドで叙情的かつ激しい歌声を披露している。

【本名】ジョン・ケネス・ウェットン
【生年月日】1949年6月12日
【出身地】イングランド
【使用ベース】 : フェンダー・プレシジョン・ベース、ZON
【所属バンド】 : キング・クリムゾン(King Crimson)、UK、エイジア(Asia)など

主な活動

キング・クリムゾン

太陽と戦慄太陽と戦慄

モーガル・スラッシュ、ファミリーでの活動を経てキング・クリムゾンに加入したのは1972年。この時点でのジョン以外のメンバーはロバート・フリップ(Gu)、ビル・ブルフォード(Dr)、ジェイミー・ミューア(Per)、デヴィッド・クロス(Vn)。この5人で制作され、1973年に発表された「太陽と戦慄」は各パートがぶつかり合いながらも緻密に重なり合い、凄まじい密度を持った傑作となった。ビル&ジェイミーと絡むジョンのベースがロバート・フリップの超絶ギターとバトルを繰り広げる「太陽と戦慄part2」はプログレ史上屈指の名曲。また、「イージー・マネー」ではそのヴォーカルでも存在感を発揮し、バンドにおいて既に欠かせない存在となっていることを証明してみせた。

暗黒の世界暗黒の世界

1974年、ジェイミー脱退を経て4人編成で制作された「暗黒の世界」を発表。スタジオ・レコーディングとライヴ・レコーディングを織り交ぜたかたちで制作された異色のアルバムではあるが、クリムゾンの演奏技術の高さを証明する1枚でもある。デヴィッドはこのアルバムを最後に脱退。3人編成となったクリムゾンは、同1974年「レッド」を発表。デヴィッドを含む元メンバーたちをゲストに迎えて制作されたこの作品はクリムゾンが一時代の頂点にまで登り詰めた証とも言える1枚となった。「レッド」「スターレス」など1970年代のプログレを代表する曲を収録、更に3曲目の「再び赤い悪魔」でのジョンのベース・プレイ、そして歌声が素晴らしい。ビルのメタリックなドラムに絡むタイトなリフ、ブリッジでのメロディアスなインプロなど聴きどころは多い。そしてロバート・フリップの解散宣言により、鉄壁のトリオを中心としたクリムゾンは終焉を迎えた。

エイジア~UK

1978年、ジョンとビル・ブルフォードを中心にエディ・ジョブソン(Key,Vn)、アラン・ホールワーズ(Gu)の4人により結成されUKが「UK(憂国の四士)」を発表。メンバー・チェンジを経て翌1979年には「デンジャー・マネー」が発表されたが、程なくバンドは解散。その後ジョンはスティーヴ・ハウ(Gu)、カール・パーマー(Dr)、ジェフ・ダウンズ(Key)という蒼々たるメンツとエイジアを結成。それぞれのバンドで培ってきたプログレッシヴ・ロックのエッセンスを凝縮しつつ、よりキャッチーな方向性にシフトした「Asia/詠時感~時へのロマン」は大ヒットを記録し、1983年の脱退までジョンはバンドの中心人物として活躍した。

プレイスタイル

様々なバンドを渡り歩いたジョンは、その中で自らのプレイスタイルを変遷させていった。キャリア初期からキング・クリムゾンに在籍していた70年代中盤頃は、いわゆるリードベース的な、自由度の高いベースラインが多い。とくにキング・クリムゾンでのプレイは、この頃のバンド自体の演奏の即興性が非常に高かったこともあり、ベースも前面に出る余地が多くメロディアスなラインが多く聴かれる。ベーシストとしてのジョンの最盛期といってもいいだろう。


King Crimson – Starless (OFFICIAL)
キング・クリムゾンの最高傑作ともいわれているアルバム「Red」に収録された楽曲。ジョン自身が素晴らしいボーカルを聞かせる前半部、ベースが中心となった後半部、テンポアップしサックスとギターのアドリブの応酬となる後半部の全てで歌うようなメロディアスなベースラインが聴ける。

70年代後半からU.K、ASIAとキャリアを重ねるにつれ、ジョンのミュージシャンとしてのスタイルはボーカル中心に軸足を移していき、ベースラインは比較的シンプルなものへと変わっていく。が、とくにゲストとして招かれたセッションなどでは、クリムゾン時代を髣髴とさせる歪んだ音色でのアグレッシブなプレイも聴ける。


Asia – “Only Time Will Tell” (Live / Official Video)
Asiaのデビューアルバムであり、最大のヒット作でもある「詠時感~時へのロマン」に収録された楽曲。80年代らしく、シンセサイザーが全目に出た楽曲だ。この楽曲でもベールラインはかなりシンプルなものとなっている。

具体的な奏法は指弾きがほとんどだが、オーソドックスな2フィンガーの他に、親指と人差し指でのピッキングや3フィンガーを駆使し、さらには人差し指をピックのように使いオルタネイトピッキングをする特殊な奏法を見せることもある。ピッキングの強さは基本的にかなり強めで、ほとんど伸びきった指を振り下ろすように弦に叩きつけピッキングする場面も見られる。


King Crimson – Easy Money
ジョンが加入してからのキング・クリムゾンの最初のアルバム「太陽と戦慄」に収録された楽曲。ジョンの右手がアップになる場面が多く、1曲の中でも奏法を様々に変化させているのが確認できる。

使用機材

クリムゾン時代はフェンダー・プレシジョン・ベースHIWATTのアンプという組み合わせをメインで使用。そこにJen Double Soundというイタリア製のワウを併用。このワウは強烈に歪むファズも備えており、これがジョンの攻撃的ファズ・サウンドの肝となっていた。またUK時代はMXRのフェイザーやフランジャーといった空間系エフェクトも使用していたようである。ソロになってからはZONのベースを手にする機会が多くなっている。

名盤:レッド

REDRED

「レッド」という楽器同士が火花を散らすインストで幕を開け、「スターレス」というこれまた超絶技巧なインプロ・バトルで幕を閉じるプログレきっての名盤。前述のように「再び赤い悪魔」では素晴らしい歌声を聴かせているが、「レッド」「スターレス」ではベースそのものがまさしく歌うようにプレイされており、ビル・ブルフォードのテクニカルなドラミングに拮抗するジョンのラインやフィルの入れ方は学ぶべきところが多い。