ジェームス・ジェマーソン

【本名】ジェームス・リー・ジェマーソン
【生年月日】1936年1月29日
【出身地】アメリカ サウスカロライナ
【使用ベース】 : Fender Precision Bass
【所属バンド】 : Motown Records

ベーシストの神

モータウンで数々の楽曲のボトムを支え続けたベース界のレジェンド、ジェームス・ジェマーソン。
たとえそのプレイを聴いたことが無くとも、ベーシストであるならば多かれ少なかれ間接的に影響を受けていると言っても過言ではない、エレキ・ベースに携わるプレイヤーたちの源流のような存在である。その生涯はもはや伝説にすらなりつつあり、今でも後世に与えた影響は計り知れない。

モータウン~栄光の日々

ハイスクール時代に手にしたアップライトを早々にマスターした天才少年は、モータウンでの演奏を重ねるうちにエレキ・ベースに転向。人差し指メインで弾いていたアップライトの奏法をエレキ・ベースに持ち込み、後に「ザ・フック」と呼ばれる1本指奏法で数々の名演を生み出していく。そのあまりに流暢で歌いすぎるベース・ラインの美しさは「本当に人差し指1本で弾いていたのか」という声があがるほど。

モータウンでの彼の名演は数多いが、やはり歴史に残るコラボレートといえばマーヴィン・ゲイの作品への参加だろう。「ホワッツ・ゴーイン・オン」「レッツ・ゲット・イット・オン」というソウル史に残る名盤で、マーヴィンの熱く、甘く、美しい歌声の裏で奏でられる素晴らしいラインの数々。
ジェームス・ジェマーソンがいなければエレキ・ベースという楽器の可能性の開花は、ジャコ・パストリアスの登場まで待たなければならなかっただろう。それほど彼の存在と奏法は画期的であった。

そんなジェマーソンもモータウンがデトロイトからロサンゼルスに移転した頃には、アルコールから離れられなくなりプレイヤーとしての輝きを失っていき、83年に心臓病でこの世を去った。
しかし、モータウンと共に生きた彼の名演は今なお人々の心に感動を与え続けてくれる。

プレイスタイル

ワンフィンガー奏法

ジェマーソンの奏法で最も有名なのは、やはり「ザ・フック」とも呼ばれる右手人差し指によるワンフィンガー奏法だろう。もちろんすべてのフレーズを人差し指のみで弾いていたわけではないが、その割合は相当高かったようだ。ジェマーソンのフレーズは、ベースとしてはかなり音数の多い部類になるが、これらを人差し指のみで弾くためにレイキングというテクニックが多用されている。このテクニックは1弦から4弦方向への連続した弦をワンストロークで一気に弾き切る奏法で、少ない動きで多くの音数を得られるメリットがある。
またジェマーソンの右手のフォームは、親指も特徴的だ。通常親指はピックアップや弦に固定させるのが一般的だ。が、彼の場合は特に何処かへ固定はせず親指の側面を弾いていない弦に軽く触れさせていた。これにより不要な音を出さないようにするミュートをしていたのだ。
ちなみにワンフィンガー奏法を取り入れているプレーヤーとして、ジェマーソンと同様のソウル系セッションベーシストであるチャック・レイニーも有名だが、一説では彼はジェマーソンに勧められてワンフィンガー奏法を始めたといわれている。

フレージング

ジェマーソンのフレージングの特徴として、スケールノート(それぞれの曲や場面に当てはまるスケールに含まれる音)やクロマチック(半音)アプローチの多用が挙げられる。ベースラインの役割として、コードのルート音やその他のコードトーンを明確に演奏することがとても重要だ。が、ジェマーソンの場合はルート音は明確に打ち出した上、さらにコードトーンや次のコードのルート音へのスケールノートやクロマチックを用いてアプローチすることで、よりメロディックなベースラインを生み出している。
またリズムの面での特徴としてシンコペーションの多用も挙げられる。前述のようにジェマーソンのベースラインは音数が多いが、それらの音のほとんどが頭拍以外のところで発音されている。このため、音数の多いラインも決してうるさい印象にはならず、むしろ楽曲に強力なドライブ感を与えている。

開放~4フレットまでを多用したポジショニング

ジェマーソンの左手のポジションは4フレットあたりまでを使用することが多く、それ以上のハイフレットは頻繁には使われない。この限られたポジションでは演奏可能な音域が限られてしまう印象があるかも知れないが、一般的な4弦ベースの場合は楽器の持つ全音域の半分以上は4フレットまでのポジションでカバーできる。そして限られたポジションで演奏していれば当然左手の横移動の回数も減らすことができ、非常に合理的なポジショニングといえるだろう。
また、開放弦の多用は前述のクロマチックの使用と関係してくる。ジェマーソンはスケールノートか否かに関係なく開放の音を多用する。例え開放の音がスケール外の音であったとしても、その音から半音上がればその音は確実にスケールノートとなり、その動きは半音下の音からスケール音へのクロマチックアプローチとなる。

ここまでのジェマーソンのプレイスタイルのうち、右手のワンフィンガー奏法や左手の4フレットあたりまでを中心としたポジショニングはアップライトベースの基本的なテクニックであり、スケールノートやクロマチックを用いたベースラインはジャズのウォーキングラインでは必須の音使いとなっている。つまり、シンコペーションしたリズムの多用と、アップライトベースでジャズを演奏することにより培ったテクニックとフレージングをエレキベースに応用することにより、ジャズベースの語法をソウル・ポピュラーミュージックに用いたのがジェマーソンのプレイスタイルであり、かつ最大の偉業といっていいだろう。

使用機材

黒くカラーリングされた1957年製フェンダー・プレシジョン・ベース、通称「ブラック・ビューティ」をメインで使用していたが盗難にあってしまい、その後入手したのが1962年製のサンバースト「ファンク・マシーン」。以降はほとんどの演奏をこのファンク・マシーンでこなしていたと言われている。
エレキに持ち替えたあともアップライトのニュアンスを残すためか、フラット・ワウンドの弦を弦高を高めにセットし、更にスポンジ製のミュートも搭載、サステインを抑えた太く甘いトーンで裏メロを鳴らしまくっていた。弦はほとんど張り替えなかったという。

アンプは Ampeg を好んで使用していたようである。

名盤:ホワッツ・ゴーイン・オン

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ジェームス・ジェマーソンの1枚と言えばやはりこれ。マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」。
タイトル曲となった「ホワッツ・ゴーイン・オン」のマーヴィン・ゲイのソウルフルなメロディのバックで歌いまくるジェマーソンのベースは、まさに「ソウル」に満ち溢れており、マーヴィン・ゲイの歌声に匹敵する歌心には感動すら覚える。ウィリー・ウィークスがプレイしたダニー・ハサウェイ「ライヴ」での「ホワッツ・ゴーイン・オン」も凄まじく美しいが、どちらも未聴ならばまずは本家のこちらから是非。

「ライト・オン」での粘り気のあるファンキーなリフや「インナー・シティ・ブルース」での思わず体を揺らしてしまうクールでグルーヴィなバッキングなど、全編がベーシストの教科書のような名盤である。