チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)

チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)はアメリカ・アリゾナ州出身のジャズベーシストです。バンドリーダー・作曲家としても有名で、リーダーアルバムも数多く発表しています。また、人種差別に対する反対運動でも知られています。

biography

1922年4月22日アメリカ・アリゾナ州で生まれます。5歳の時に、家族でロサンゼルスへ移り住みます。8歳でトロンボーンの演奏をはじめ、のちにチェロさらにウッドベースへ転向。デューク・エリントンのビッグバンドに憧れて音楽の道を志すようになり、ピアノや音楽理論も学び始めます。40年代前半からルイ・アームストロングやライオネル・ハンプトンのグループでプロのベーシストとして活動しはじめ、45年には始めてのレコーディングを経験します。
1950年代なるとジャズの本場二ューヨークへ拠点を移し、52年には、妻のセリア・ミンガス、ドラマーのマックス・ローチとともにレコードレーベル「デビュー・レコード」を立ち上げます。53年5月に、サックスのチャーリー・パーカー、トランペットのディジー・ガレスピー、ピアノのバド・パウエルそしてミンガスとマックス・ローチのメンバーでカナダで行われたライブの模様が、デビュー・レコードよりライブアルバム「Jazz At Massey Hall(ジャズ・アット・マッセイホール)」としてリリースさます。この作品は名演として話題になり、これがきっかけでミンガスの名前も広く知れ渡っていくようになります。またこの年、憧れのデューク・エリントンのビッグバンドに、レギュラーベーシストの代役として起用されますが、メンバーとのいざこざにより、ごく短期間でクビとなってしまいます。


Charles Mingus feat. Charlie Parker and Dizzy Gillespie – Salt Peanuts
「Jazz At Massey Hall」に収録された、ディジー・ガレスピーのオリジナル曲「Salt Peanuts」の演奏です。

「デビュー・レコード」の経営は次第に困難となり、ミンガスはバンドリーダーとしてアトランティックレコードと契約。1956年にはリーダーアルバム「Pithecanthropus Erectus(直立猿人)」をリリースします。タイトル曲「直立猿人」は、文明社会を風刺した4部構成のオリジナル楽曲で、ジャズに文学的要素を持ち込んだとして高い評価を受けました。この作品の成功により、ミンガスはベーシストとしてだけではなく作曲家としての地位も確立していきます。
そして1959年には「直立猿人」と並ぶミンガスの代表作「Mingus Ah Um」がリリースされます。この作品には、差別主義者であった当時のアーカンソー州知事を非難した「フォーバス知事の寓話」と、敬愛するサックス奏者レスター・ヤングに捧げた「グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット」という代表曲2曲を始め、全てオリジナルの9曲が収録されました。翌60年に発売された「Mingus Presents Mingus」にも「フォーバス知事の寓話」は収録されており、こちらは自身のボーカル入りという、よりメッセージ性の強いものとなっています。


Charles Mingus – Goodbye Pork Pie Hat(Live At Montreux 1975)
ミンガスの代表曲「グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット」の1975年のライブ映像です。この曲は、現在ではジャズのスタンダード曲となっており、様々なミュージシャンが取り上げています。

1962年には、デューク・エリントンのアルバム「Money Jungle」にドラムのマックス・ローチとともに参加、憧れのエリントンとの10年ぶりの競演を果たします。同じ62年には、リーダーアルバム「Oh Yeah」をリリース。この作品ではベースは他のプレイヤーに任せ、ミンガスはボーカルとピアノを演奏するという異色の作品になっています。またこのころ、日本のジャズピアニストの秋吉敏子も参加した「Town Hall Concert」や、12人という大編成で6曲に及ぶデューク・エリントンのメドレーを収録した「Mingus At Montreux」などのアルバムを自主制作し、さらには通信販売により販売するという、現代のミュージックビジネスを先取りしたような活動も行っています。
1960年代後半は活動が停滞しますが、70年代に入り再び活発な活動を開始します。1974年には、サックスのローランド・カークなど合計9人のプレイヤーによるジャムセッションを収録した、「Mingus At Carnegie Hall」をリリースします。このアルバムには「C Jam Blues」と「Perdido」というデューク・エリントン作曲の2曲のみが収録されており、ともに20分以上の長尺の演奏となっています。また、同じ74年12月に同時発売された「Changes One」「Changes Two」という2枚のアルバムには、ともに「Duke Elington’s Sound Of Love」という楽曲を収録(Changes Oneはインスト、Twoはボーカル入り)し、同年5月に亡くなったデューク・エリントンへ追悼の意を示しました。
1977年には「Cumbia and Jazz Fusion」をリリースします。Cumbia(クンビア)とはコロンビアの伝統的なダンス音楽で、このアルバムは、タイトル通りクンビアとジャズを融合させたものとなっています。この頃からミンガスは、筋萎縮性側索硬化症という病に冒され車椅子生活となり、ベースを弾くのが困難になりますが、作曲編曲活動は引き続き行なっています。
1979年1月5日、筋萎縮性側索硬化症の悪化により56歳で息を引き取ります。

プレイスタイル

チャールズ・ミンガスのベースプレイで特徴的なのは、その音色の力強さでしょう。ミンガスは人差し指1本によるワンフィンガー奏法をメインにしており、この人差し指を弦と平行に近い角度でピッキングしていたため、指と弦の接触する面積が増え、これが力強い音色に繋がっていると考えられます。またサスティン(音の伸び)も短めで、このことからは弦高を高めのセッティングにしていたことが想像できます。
そしてミンガスといえば、やはりバンドリーダー・作曲家としての側面がよく知られています。もちろん、当時から自らリーダーとなりアルバムをリリースするジャズベーシストはいましたが、取り上げる楽曲はいわゆるスタンダード曲が中心でした。一方、ミンガスは自らのオリジナル楽曲を多数収録した作品を、生涯にわたってコンスタントにリリースし続けており、さらにはその楽曲がスタンダード曲となって他のミュージシャンにも取り上げられており、作曲家としても成功したジャズ史上初の人物といってもいいのではないでしょうか。

名曲「Goodbye Pork Pie Hat」

Mingus Ah UmMingus Ah Um

数あるミンガスの楽曲の中でも最も有名な楽曲は、1959年の「Mingus Ah Um」に収録された「グッド・バイ・ポーク・パイ・ハット」でしょう。この曲は、前述のようにサックス奏者レスター・ヤングに捧げられています。 ポーク・パイ・ハットとはトップが低く平らな円筒状で、わずかにカールした狭いつばを持つ帽子のことで、レスター・ヤングがこの帽子を愛用していたことからつけられたタイトルです。
マイナーペンタトニックスケールを中心とした、シンプルながら印象的なメロディを持つ楽曲で、ミンガス自身もたびたびライブで取り上げたほか、ジャズミュージシャンだけでなくロック・ポップスなどのミュージシャンからもカバーされている楽曲です。その中から代表的なものをいくつか見ていきます。

Stanley Clarke


Stanley Clarke – Goodbye Pork Pie Hat – 10/12/1979 – unknown (Official)
ジャズベーシスト「スタンリー・クラーク」によるライブ映像です。スタンリーが自身のベースでメロディを演奏しています。1988年のアルバム「If This Bass Could Only Talk」にも、この楽曲が収録されています。

Jeff Beck


Jeff Beck – Pork Pie (From “Performing This Week Live At Ronnie Scotts”)
ロックギタリスト「ジェフ・ベック」による2007年のライブツアーの映像です。当時若干20歳の女性ベーシスト「タル・ウィルケンフェルド」の参加が話題となりました。1976年のアルバム「ワイヤード」にも収録されています。

Joni Mitchell

https://www.youtube.com/watch?v=Y6k-_xNi0e8
Joni Mitchell – Goodbye Pork Pie Hat/Album:Mingus 1979
カナダのシンガーソングライター「ジョニ・ミッチェル」によるカバーです。1979年のアルバム「ミンガス」に収録されています。このアルバムは、その名の通りミンガスに捧げるアルバムとして作られており、ミンガス自身も制作に関与していましたが、完成前にこの世を去ってしまい、図らずも追悼作品となりました。ジャコ・パストリアス、パット・メセニー、ウェイン・ショーターなどジャズ・フュージョン界のビッグネームが多数参加しています。この曲において、特にジャコのベースは存在感は素晴らしく、ボーカルとベースだけ抜き出して聴いても楽曲が成立するのではと思えるほどです。ちなみに歌詞は ジョニ・ミッチェル自身によるもので、ボーカリストがグッド・バイ・ポーク・パイ・ハット を取り上げる際には、この歌詞が使われることが多いです。

WDR BIG BAND


John Clayton feat. By WDR BIG BAND – Goodbye Pork Pie Hat(Rehearsal)
ドイツの名門ビッグバンド「WDR BIG BAND」による演奏。ジャズベーシスト「ジョン・クレイトン」のアルコ(弓による演奏)がフューチャーされています。