《ワンオフにかける情熱》STR GUITARSのベースについて[記事公開日]2017年3月19日
[最終更新日]2020年03月19日

STR GUITARS STR GUITARS10周年記念モデル 《2016楽器フェア》レポート:エレキギター&エレキベース編

「STR GUITARS(以下、STR)」は、2006年の立ち上げ以来、飛鳥ファクトリーの工場長八塚悟(やつづかさとる)氏を筆頭にした熟練工のチームで高品位なギター/ベースを一本一本製作しているブランドです。多くのブランドのプロデュースをしている「株式会社ディバイザー」の最高グレードという位置づけで、どの楽器もワンオフ(ロット生産をせず、一度の注文で一回だけ作る)で生産される、同じものが世界に二つとない、世界に一本だけの楽器を作り続けています。STRで作られるベースは弾き手の想像を凌ぐと言われ、加工精度や品質、音色は世界屈指と評価されています、今回は、このSTRのベースに注目してみましょう。


Nathan Aweau On Bass
STRの7弦ベースを愛用するNathan Aweau氏のソロプレイ。ウクレレ奏者ジェイク・シマブクロ氏との共演など、その活動は精力的です。

STRの特徴

工場長八塚悟氏を中心とした制作体制

飛鳥ファクトリーの工場長八塚悟氏は、株式会社ディバイザーの前身となるヘッドウェイ工場が設立された1977年に生まれています。同社立ち上げのメンバーであった伝説的なギター職人百瀬恭夫(ももせやすお)氏のもとで楽器製作の修行を重ね、若くして飛鳥工場長の座に就きました。氏はプロミュージシャンからの特別注文なども手掛けながら職人としてのキャリアを積み上げていき、高品位な楽器を作り上げることに対して執拗とも表現される情熱を注ぎます。

的を得た、そしてポイントを絞ったモデル展開

オーダーメイドもできるワンオフ生産を特徴とするSTRですが、ボディシェイプや仕様がある程度絞られています。一見すると選択の幅が狭いように見えるかもしれませんが、性能とサウンドで勝負するベース本体の仕様としてはむしろ十分すぎると言えるでしょう。STRのベースは、「音楽のあらゆる要求に応じるハイエンドベース」として、ポイントをキュッと絞ったモデル展開を行っています。

3種のボディシェイプを基本とするモデル展開

STRのボディシェイプは大きく分けて3タイプあり、セットするネックの仕様もボディに応じて決定づけられています。3タイプはいずれもジャズベースを出発点とした「オフセット・ウェスト(くびれ位置が非対称)となっており、経っても座っても良好なフィット感が得られます。

CS(Classic Style)

CS549 #426 CS549 #426
「クラシックスタイル」は、伝統的なジャズベースのスタイルに近いボディシェイプを持っていながらハイポジションでの演奏に有利なヒールカットが施されています。基本的には1Pメイプルで21フレットのネックが4本のボルトでジョイントされます。

LS(Lead Style)&DLS(Deluxe Lead Style)

LS549 #440 LS549 #440

「リードスタイル」はCSをアレンジした現代的なスタイルで、24フレットにまで容易に手が届く深いカッタウェイが採用されています。ネックは3Pや5Pのものが採用され、「LS」はボルトオンジョイント、「DLS」はセットネックとなっています。

SC(Single Cut) &DSC(Deluxe Single Cut)

SC548 #359 SC548 #359

「シングルカット」は近年注目されている流行のスタイルで、STRでは12フレット地点にボディ/ネックの境界線があります(=12フレット接続)。このようなスタイルはボディから出ているネック部分の長さを短くできるためネックの剛性を大幅にアップさせることができ、張りのある力強い弦振動を得ることができます。ジョイント部分には演奏性を考慮して大胆なカットが施されているので、ネック裏に親指を添えるフィンがリングなら演奏に何ら支障がありません。こちらも「SC」はボルトオンジョイント、「DSC」はセットネックとなっています。

弦の仕様

弦については

  • 弦の本数(4弦、5弦、6弦、7弦)
  • 弦長(34インチ、35インチ、36インチ)
  • 弦間ピッチ(18mm、19mm)

というようにいくつもの選択肢が用意されており、好きな仕様をセレクトすることができます。これらの仕様はモデル名に冠されるため、モデル名だけでどんな仕様のベースかだいたい想像がつくようになっています。

例)
■LS449:LSタイプ、4弦、弦長34インチ、弦間ピッチ19mm
■DSC658:DSCタイプ、6弦、弦長35インチ、弦間ピッチ18mm

モデル名にはこれに加えて通し番号が添えられますから、そのベースがSTR立ち上げから通算何本目のベースなのかもわかります。

通算400本目という節目を記念して製作された記念モデル「DSC549#400」は、たいへん貴重で高額な「スネークウッド」をふんだんに用いた、規格外の特別仕様となっています。ディバイザーのショールームでも際立った異彩を放ち、私たちの目を楽しませてくれます。

DSC549#400 DSC549#400

DSC549#400:ボディ裏 「スネークウッド」という希少な木材をボディトップやピックガードなどに使用している

様々なブランドで提唱する新しい価値:ディバイザー訪問インタビュー – エレキギター博士

最高のウッドマテリアルを惜しみなく投入

ディバイザーは珍しい木材を積極的に使用することで知られていますが、飛鳥工場長八塚悟氏が足で稼いでくると言われる希少な木材が、STRでも惜しみなく使用されます。楽器を彩るトップ材はボディだけでなく、同じものがヘッドにも貼られて「トップ材によるマッチングヘッド」仕様となっているものも多く作られています。ヘッド裏にも化粧板が貼られますが、これは美観のためだけでなく、ヘッド部分の剛性をアップさせるための工夫でもあります。トップ材に合わせた木製のピックアップカバーが作られることも多く、希少材の美しさがこれでもかと言わんばかりに演出されます。

さまざまなトップ材で彩り、仕様の選択肢にある程度の幅を設けているSTRですが、ボディのバック材は「1Pアッシュ」を基本とするというこだわり方を見せています。バック面を大胆に走るアッシュの木目は1Pならではのもので、他のブランドではなかなか見ることができません。しかしこれら木材はただ珍しいとか高級だと言うだけでなく、楽器として長期的に愛用されるための強度があること、狂いの出にくい木目であること、充分に寝かされた最高のコンディションであることなどの条件を満たした、楽器の材料として最高のものだと認められたものが厳選されます。

機能性十分なコントロール系

シンプルな操作系のベースも作りますが、STRでは多くのモデルで他機能な操作系が採用されており、どんな現場にもフィットさせることができる柔軟性を持っています。

先述の「DSC549#400」を例に挙げると

DSC549#400:コントロール多数の操作系統が装備されている

  • マスターボリューム、ブレンダー、トーン
  • 3バンドイコライザー、MID freqスイッチ、プリアンプON/OFF
  • ピックアップ各個の直列/並列切替え

という多機能ぶりです。

「ブレンダー」は「バランサー」と同義で、フロントピックアップとリアピックアップの配合を調節します。EQとは別個にトーンが付けられているのが第一のポイントで、プリアンプを切ったパッシブ時にもトーンを効かせることができます。「MID freq」は「MIDシフト」とも呼ばれる機能で、MIDのつまみで上下させる周波数帯を切り替えることができます。

「直列/並列切替え」は「シリパラ」とも呼ばれるもので、

  • 直列(シリーズ):太く、厚みのある音
  • 並列(パラレル):繊細な、澄んだ音

をピックアップごとに切り替えることができます。

ディバイザー最高グレードを彩る社外パーツ

現在のSTRでは、金属パーツや伝送系に対して積極的に高品位な社外パーツが採用されます。ペグやブリッジには世界的に評価の高い「GOTOH」や「HIP SHOT」のものを取り入れるほか、電機系にはSTRオリジナル以外に「nordstrand pickups」や「Aguilar」のものが使用されます。

nordstrand pickups

DCDual Coil

「ノードストランド・ピックアップ」は、かのジョン・サー氏(Suhr)のもとで5年間に渡りマスタークラフトマンとしてキャリアを積み上げてきたキャリー・ノードストランド氏が立ち上げたピックアップ/プリアンプのブランドです。ピックアップは伝統的な手巻きで作られますが、ヴィンテージサウンドの後追いばかりでなく現代の音楽を見据えたモダンな設計を積極的に取り入れており、ヴィンテージを知り尽くしたノウハウと新しいアイディアがバランスよく配合されたサウンドが高く評価されています。

STRで採用されている「DC(Dual Coil)」シリーズは、2基のジャズベース用ピックアップを1基にまとめてハムバッカーを作っています。2基のピックアップは並列につないでクリアな音にすることも、直列につないでファットな音にすることもできるようになっています。マグネットには「アルニコIII」が選択されており、華麗で硬質なキャラクターを持つアルニコVと比べて、60年代のジャズベースにみられる「暖かく柔らかいサウンド」となっています。

Aguilar AMPLIFICATION

OBP-3OBP-3

「アギュラー(Aguilar)」はニューヨークに拠点を構えるベース用アンプメーカーで、
・ディープな低音
・明瞭な中音域
・甘い高音域
というサウンドが、櫻井哲夫氏や石川俊介氏らを始めとする多くのプロミュージシャンに支持されています。

オリジナルのプリアンプも開発しています。STRで採用されているプリアンプ「OBP-3」は同社製品内で最も高機能なモデルです。3バンドのイコライザーに加え、中域の周波数帯をスイッチの操作で切り替えられるようになっています。ピックアップの開発も手掛けており、ヴィンテージサウンドを意識したものからモダンなサウンドを志向した最新モデルまで多くのバリエーションを持っています。ピックアップは弦ごとの音量バランスがきちんととられており、プリアンプの有無にかかわらず、ピッキングニュアンスを漏らさず拾います。

STRのベースラインナップ

Customshop

STRはどのベースも、3タイプのボディシェイプを基本として、飛鳥ファクトリーの「完全ワンオフ」で作られます。ミュージシャンからのオーダーメイドやショップからの注文、記念モデルなどの特別仕様など、トップ材の個性も相まってすべてが世界でただ一つのベースです。最高の素材と熟練の加工技術で作られるベースは、世界屈指のクオリティを誇ります。


STR LS648-100 making move 01
ネックにトラスロッドを挿入し、指板を貼り合わせているところ。てきぱきとした手の動きが、技術の確かさを物語っていますね。

ここまでのクオリティを持ちながら、同梱されるケースは「プロテクトケース」と呼ばれる肉厚なギグバッグであることも、STRのこだわりの一つです。プロミュージシャンが現場にベースを持っていく時に使うのは、ハードケースよりもギグバッグが一般的であることを考慮してのことです。

それだけにSTRの製品は、たくさん流通させることよりも一本一本の価値を重視しています。一本一本が最高の楽器であるため取り扱いや保管には慎重さが求められ、また顧客に対しての商品説明やオーダーの受注など、顧客とSTRとの橋渡しをつとめる販売店は少数の特約店に限定しています。

それぞれに表情を持つ、それぞれが世界で唯一のSTRベースですが、これまでにどんなものが作られてきたのか、いくつかチェックしてみましょう。

10th ANNVERSARY

2016年でブランド立ち上げ10周年となることを記念し、10周年記念モデルが10モデル制作されました。全モデルで

木部 ・アッシュ1Pボディ、ボディ&ヘッドのトップにバックアイバール材をセレクト
・バックアイバール材を用いた木製ピックアップカバー
・弦長34インチ、メイプル&ウォルナット5Pネック、フレイムメイプル指板
電機系 ・STRオリジナルデュアルコイルピックアップ
・Aguilar製「OBP-3」プリアンプ
・ボリューム、ブレンダー、トーン
・3バンドイコライザー、Midシフト、プリアンプON/OFF
・両ピックアップ各個の直列/並列切り替え
金属部品 ブリッジ:Hipshot STYLE A
ペグ:Hipshot Ultimate

10周年記念モデルの共通仕様

バックアイバールの個性を前面に打ち出したこのような仕様を共通とし、ボディシェイプや弦数、ネックジョイントでバリエーションが作られています。人気仕様である「LS549」と「DLS549」並びに「DSC549」は2本作られていますが、それぞれトップ材が明るめのものと暗めのものという色調で、キャラクターが設定されています。

■LS449、LS549、LS648
■DLS549、DSC499、DSC648
■DSC549

STR GUITARS X WOODLINE Collaboration Model

WOODLINE4-S10A SM WOODLINE4-S10A SM

2016年、10周年を迎えたSTRを記念し、WOODLINE(Bacchus Guitars製品)をSTR Guitars制作スタッフがSTR品質の木材で仕上げた10本限定コラボレーションモデルが制作されました。1Pアッシュをボディ材に採用、伝送系にはSTRピックアップとAguilar「OBP-3」プリアンプを搭載した、STRのベースとして作られています。ネックに1Pの柾目材(クォーターソーン)フレイムメイプル、指板材には希少なハカランダ(ブラジリアンローズウッド)を採用するなど非常に贅沢な仕様ですが、制作された10本それぞれがやはりワンオフで、それぞれ違ったトップ材やカラーリングで彩られています。

■WOODLINE4-S10A
■WOODLINE5-S10A

今回制作されたのは4弦、5弦共に5本ずつの合計10本で、いずれもアッシュ1Pボディ、柾目材フレイムメイプル1Pネック、ハカランダ指板という最高級の木材を使用したベース本体に、

  • バックアイバール(BB)
  • マーブルウッド(MW)
  • キルテッドメイプル(QM)
  • クロッチウォルナット(CW)
  • スポルテッドメイプル(SM)
  • キルテッドブビンガ(QB)
  • 黒柿(くろがき。KG)

というさまざまな表情を持ったトップ材でボディとヘッドに彩りを添えています。杢の入った銘木でマッチングヘッドにするのはバッカスには無いゴージャスな意匠です。

WOODLINE5-S10A MW WOODLINE5-S10A MW

操作系についてはSTRとしては標準的な仕様ですが、

  • マスターボリューム、PU ブレンダー、トーン
  • 3バンドイコライザー、Midシフト、プリアンプON/OFF
  • デュアルコイル直列/並列切り替え

という大変高機能なものです。2ハムバッカーの限界近くまでサウンドバリエーションが拡げられています。

Sierra Series

LS5 LS5 Powder Snow White

SC5 SC5 Mountain Night Black

「Sierra Series(シエラシリーズ)」は、STRの製品を手に入れやすい価格帯で提供するラインで、2015年からスタートしました。ディバイザーの組込み部署による制作で、カスタムショップ製に比肩する操作性や品質を持っていながら大幅な低価格化が実現しました。

生産コストを抑えながらも品質に対する妥協はなく、しっかり寝かせた木材を使用し、熟練工の手作業で丁寧に作られます。プリアンプはカスタムショップと同じAguilar製「OBP-3」が採用されているほか操作系も共通なので、欲しい音色にしっかり合わせることができます。いい音でいい演奏がしたいと真剣に願うベーシストの要求にしっかり応じることのできるベースです。

現在シエラシリーズのベースは、STRを代表する2タイプの5弦、それぞれホワイトとブラックのカラーに絞ってリリースされています。ここまで思い切ってバリエーションを絞り込むことで、末端価格で10万円台という大幅なプライスダウンができています。

5弦ダブルカッタウェイモデル「LS-5 ASH」
5弦シングルカッタウェイモデル「SC-5 ASH」

両機とも

  • アッシュボディ、メイプルネック、ローズウッド指板
  • 弦長34インチ、ボルトオンジョイント
  • ブラックパーツ(GOTOHペグ、ディバイザーオリジナルブリッジ)
  • ディバイザー製デュアルコイルピックアップ、Aguilar製「OBP-3」プリアンプ
  • STRプロテクトケース付属

といった基本的な仕様が共通ですから、ボディ形状だけで選ぶことができます。


以上、STRのベースについてチェックしていきました。
ポイントを絞ったモデル展開によって「中身で勝負する楽器」であり、また希少材を惜しみなく投入する「世界に二つとない楽器」でもあります。ハイエンドモデルでありながらも、このクラスの楽器としてはまだ求めやすい価格帯に抑えられているので、弾きやすくて音が良いベースを探している人には是非チェックしてほしいブランドです。