ジョン・エントウィッスル

本名:ジョン・アレック・エントウィッスル
1944年10月9日生まれ
イングランド出身
【使用ベース】 : フェンダー・プレシジョン・ベース 他多数
【所属バンド】 : The WHO

1960年代に登場し、爆音と豪快なパフォーマンス、そしてハイ・クオリティな作曲センスで一躍スターダムを駆け上がったザ・フー。爆音でコードをかき鳴らし、ステージ上を暴れ回るピート・タウンゼンド(Gu)、フィルインで埋め尽くされたようなリズムを刻むキース・ムーン(Dr)、派手なルックスと確かな歌唱力で観客を魅了し続けたロジャー・ダルトリー(Vo)といったロック史上類を見ない超個性派集団の中で、寡黙な佇まいと裏腹に高度なテクニックに裏付けされたリード・ベースで勝負し続けた「The Ox」ことジョン・エントウィッスル。そのベース・ソロさながらのライン作りは当時のベーシストはもちろん、その後登場するベーシスト達にも大きな影響を与えてきた。

biography

ザ・フー


The Who – I Can’t Explain

1965年にシングル「アイ・キャント・エクスプレイン」でデビューしたザ・フーは、同年に発表された「マイ・ジェネレーション」のヒットによりモッズ・カルチャーのアイコンとしてイギリスの若者たちの代弁者として熱狂的な支持を得る。その「マイ・ジェネレーション」でジョンは起承転結の効いた素晴らしいベース・ソロを聴かせ、当時のロック・リスナーたちの度肝を抜いた。今なお名ベース・ソロと呼ばれ続けるこの名演はベーシストならば必聴。

The WHO My Generation The WHO「My Generation」

前述の2曲を含むアルバム「マイ・ジェネレーション」を発表した後、2枚のアルバムを挟んで遂にロック・オペラの金字塔と呼ばれる「トミー」を発表。続けて「フーズ・ネクスト」「四重人格」といった傑作を生み出していく。この頃にはライヴ・バンドとしての評価も確かなものとなっており、ウッドストック・フェスティバルやワイト島でのパフォーマンスは伝説となっている。ライヴでのジョンは轟音のギター&ドラムに対抗するためか、マーシャルハイワットのアンプ深く歪ませたサウンドで、凄まじい音数のリード・ベースをプレイしている。

The WHO Who's NextThe WHO「Who’s Next」

1978年、ドラマーのキース・ムーンが他界したのちも活動を続けたが、「イッツ・ハード」を発表した際のツアー後、1983年に解散。その後1996年に復活し活動するも、2002年にジョンは薬物の過剰摂取のため他界。享年57歳であった。オリジナル・メンバーは2人になってしまったが、2006年にザ・フーとして「イッツ・ハード」以来となるスタジオ・アルバムを発表している。

ソロ

ザ・フーにおいても「従兄弟のケヴィン」「ヘブン・アンド・ヘル」など素晴らしい楽曲を提供しおり、ベーシストとしてのみならずソングライターとしても一流であることを証明してみせたジョンではあるが、作曲においてピートが主導権を握るザ・フーの中にあってはジョンの楽曲が採用される機会は多くなく、その不満を解消させるべく1971年にソロ・アルバム「スマッシュ・ユア・ヘッド・アゲインスト・ザ・ウォール」を発表。以降精力的にソロ・アルバムを発表していく。ザ・フーでも時折見せていたヴォーカリストとしてのジョンの魅力も堪能出来る。

プレイスタイル

ベースライン

ジョン・エントウィッスルのベースプレイの特徴といえば、やはり「リードベース」とも呼ばれる自由に弾きまくるベースラインだろう。一口にリードベースといっても、普段は比較的ベーシックなラインを弾きフィルなどで派手なプレイを見せるスタイルや、歌のバック等でも常に弾きまくるスタイルなど様々だが、ジョンのスタイルは後者で、歪んだサウンドによる非常に音数の多いベースラインはまるでリードギターのようにも聴こえる。実際、ピート・タウンゼンドも「このバンドはベースとドラムがリード楽器で、ギターがリズム楽器になっている点がユニークだった」と語っている。また、音使いはほぼペンタトニックスケール一辺倒といっていいシンプルさだが、フレーズのバリエーションが多くそれを感じさせないものとなっている。


The Who – The Real Me (Live In London/2013)
6thアルバム「Quadrophenia(四重人格)」に収録された楽曲で、ジョンのリードギターのようなベースラインの代表的なもの。このライブはジョンの死後に行われたものだが、サポートのベーシスト(おそらくピノ・パラディーノ)がジョンのスタイルを再現しプレイしている。

音色・音量

ジョンのベースはまるでギターのように過激に歪んでおり、さらにとても太い音色となっている。この歪みはエフェクターによるものではなく、アンプのゲインを上げることより得られている。前述のように「マイ・ジェネレーション」でのベースソロはよく知られているが、当時のイギリスのミュージシャンは、その歪んだ音色からか、これをギターソロと勘違いしていたというエピソードがある。また音量も非常に大きく、ライブではギターやドラム以上にベースの音がよく聴こえてくる。ジョンはプレイ中にアクションをせず直立不動でプレイすることでも有名だが、本人曰く、一歩でも動いたらその大音量でベースとアンプがハウリングを起こすから動けないのだそうである。


マイ・ジェネレイション / ザ・フー
ザ・フーの名を一躍有名にした1965年の楽曲。0:58あたりからジョンのベースソロが聴ける。歪んだ音色で、確かにギターのように聴こえる。当時はソロを弾くベーシストが多くなかったのも、ギターソロと勘違いされた一因だろう。

右手の奏法

ジョンは新しい奏法の習得にとても貪欲で、ザ・フーのデビュー当時はピック弾きを中心にプレイしていたが、徐々に指弾きメインにシフトしていった。この指弾きもオーソドックスな2フィンガーにとどまらず、3フィンガー・4フィンガーと発展していき、さらにザ・フーが解散直後の40歳のころにタッピングも習得し、ライブでのベースソロ時には多彩な右手のテクニックを駆使して素晴らしいパフォーマンスを披露している。


John Entwistle – Throwback Thursday from the MI Vault
ハリウッドの名門音楽大学「Musicians Institute」でのクリニックの模様。冒頭、28:50、1:03:15の3箇所で素晴らしいベースソロパフォーマンスが見れる。上記のテクニック以外にも、親指と人差し指をつまんでピックのようにプレイする奏法や、スラップのプルのような奏法も確認できる。

使用機材

ザ・フーでは、フェンダー・プレシジョン・ベースギブソン・サンダーバード・ベースリッケンバッカー・ベース「4001」、アレンビックなどを使用。サンダー・バードのボディにプレシジョンのネックを取り付けた「フェンダー・バード」はあまりにも有名。アンプはマーシャルJTM45、ハイワットCP103などを使用、こういったアンプを深く歪ませることにより、あの太く攻撃的なトーンを生み出していた。ちなみに初期にはVOXのベースも使用している。
ソロではワーウィックのシグネイチャー・モデルである「バザード・ベース」を愛用。その独特なルックスを持つベースは見た目にも強烈なインパクトを持っており、長年ジョンの相棒として活躍した。

名盤:ライヴ・アット・リーズ

The WHO Who's NextThe WHO「ライヴ・アット・リーズ」

「トミー」「フーズ・ネクスト」などザ・フーとしての名盤は多いが、ジョンのベース・プレイをじっくり楽しめるという点ではやはり「ライヴ・アット・リーズ」がおすすめ。ペンタトニックを多用してベースをドライヴさせまくるジョンのリード・ベースをこれでもかと堪能できる。「ヤングマン・ブルース」「マイ・ジェネレーション」など6曲入りのオリジナル盤でも十分楽しめるが、現在は「トミー」の曲を収録したデラックス・エディションが発売されているので是非こちらを聴いていただきたい。ザ・フーのライヴ・バンドとしての凄みを実感出来るはず。